今回のテーマは、「物権の優先的効力」である。
債権に対する優先的効力
一つの物について物権と債権が競合する場合は、物権が優先する。
具体的には、次の二つの場面において、物権の債権に対する優先的効力が認められる。
物の利用を目的とする債権に対する優先
Aが自分が所有するパソコンをBに賃貸し、Bが使用していたところ、AがそのパソコンをCに売却した場合、パソコンの所有権を取得したCは、パソコンの賃借権(=債権(民法601条))を有するにとどまるBに優先し、パソコンの引き渡しをBに請求できる。(売買は賃借権を破る)
ただし、これが、パソコンでなく不動産の場合は、Bは、賃借権の登記を備えると、自己の賃借権をCにも主張できる。(605条)
不動産賃借権
不動産賃借権については、不法占拠などの侵害にあいと賃借人の不利益が大きくことに加え、物権と同時に扱われることもあり、654条の4では、以下のように規定している。
(不動産の賃借人による妨害の停止の請求等)
第605条の4 不動産の賃借人は、第605条の2第1項に規定する対抗要件を備えた場合において、次の各号に掲げるときは、それぞれ当該各号に定める請求をすることができる。
1 その不動産の占有を第三者が妨害しているとき その第三者に対する妨害の停止の請求
2 その不動産を第三者が占有しているとき その第三者に対する返還の請求
(不動産の賃貸人たる地位の移転)
第605条の2 前条、借地借家法(平成三年法律第九十号)第十条又は第三十一条その他の法令の規定による賃貸借の対抗要件を備えた場合において、その不動産が譲渡されたときは、その不動産の賃貸人たる地位は、その譲受人に移転する。
(略)
民法・e-Gov法令検索
一般債権(無担保債権)に対する優先
Aに金を貸したBとCは、Aが返金しないとき、Aの所有する甲土地に対して、強制執行の手続をとって、債権を回収することになるが、B、C間には債権者平等の原則が働く。
これに対し、Aに金を貸したDが甲に担保物権を有するときは、Dは、担保物権を有しないB、C(一般債権者)に優先して、甲から債権の回収を図ることができる。(抵当権に関する369条1項等)
物権相互間の優先的効力
物権は、物を排他的に支配する権利である。したがって、1つの物の上には、互いに両立しえない内容の物権が併存することはなく、先に成立した物権が優先する。
もっとも、物権変動(所有権の取得も含む)は公示しなければ第三者に対抗できない。(177条。178条)➡「公示原則」
さらに、民法は、特別な理由に基づいて、物権相互間の優劣をあらかじめ決めていることもある。(先取特権に関する329条以下など)。
(参考文献)物権法[第3版] NBS (日評ベーシック・シリーズ)(日本評論社)、C-Book 民法II〈物権〉 改訂新版(東京リーガルマインド)
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