先のブログ記事で、婚姻の届出が婚姻の成立要件であることを確認したが、婚姻の届出さえあれば、それだけで夫婦としての権利義務が当然に認められるわけではない。
婚姻の成立には、当事者間に婚姻する意思(婚姻意思)の合致が必要となる。
これを明示した民法上の規定はないが、「婚姻の無効」を定めた742条1号は、これを当然の前提としている。
(婚姻の無効)
第742条 婚姻は、次に掲げる場合に限り、無効とする。
一 人違いその他の事由によって当事者間に婚姻をする意思がないとき。
二 当事者が婚姻の届出をしないとき。ただし、その届出が第七百三十九条第二項に定める方式を欠くだけであるときは、婚姻は、そのためにその効力を妨げられない。
(民法・e-Gov法令検索)
婚姻意思の内容
婚姻意思の内容について、現在では社会通念上ないし社会習俗上の婚姻関係を形成する意思も必要であると解されている。(実質的意思説)
判例も実質的意思説を採用している。(最判昭和44.10.31民集 第23巻10号1894頁)
民法742条1号にいう「当事者間に婚姻をする意思がないとき」とは、当事者間に真に社会観念上夫婦であると認められる関係の設定を欲する効果意思を有しない場合を指し、たとえ婚姻の届出自体については当事者間に意思の合致があつたとしても、それが単に他の目的を達するための便法として仮託されたものにすぎないときは、婚姻は効力を生じない。
(最判昭和44.10.31民集 第23巻10号1894頁)
婚姻意思の存在時期
届出は婚姻の成立要件と解されているので、婚姻意思は、合意時及び届出作成時のみならず、届出受理時にも存在しなければならない。
もっとも判例は、自らの意思に基づいて届出書を作成したが、その後届出の受理前に意識を失っていたとしても、受理前に翻意したなど特段の事情がない限り、婚姻は成立するとしている。
将来婚姻することを約して性的交渉を続けてきた者が、婚姻意思を有し、かつその意志に基づいて婚姻の届書を作成したときは、かりに届出の受理された当時意識を失つていたとしても、その受理前に翻意したなど特段の事情のないかぎり、右届出の受理により婚姻は有効に成立するものと解すべきである。
(最判昭和44.4.21 集民 第99号137頁)
婚姻意思が欠ける婚姻の効力
婚姻の無効の性質については争いがあるが、裁判所の審判又は判決によるまでもなく、初めから何の効力も生じないという当然無効説が判例・通説である。
無効な婚姻の追認
判例は、事実上の夫婦の一方が他方の意思に基づかないで婚姻届を作成提出した事案において、当事者両名に夫婦としての実質的生活関係が存在しており、かつ、のちに他方の配偶者が届出の事実を知ってこれを追認したときは、116条本文を類推適用して、届出時に遡って有効になるとした。
(最判昭和47.7.25民集 第26巻6号1263頁)
事実上の夫婦の一方が他方の意思に基づかないで婚姻届を作成提出した場合において、当時右両名に夫婦としての実質的生活関係が存在しており、かつ、のちに他方の配偶者が届出の事実を知つてこれを追認したときは、右婚姻は追認によりその届出の当初に遡つて有効となると解すべきである。
(最判昭和47.7.25民集 第26巻6号1263頁)
(参考)家族法[第4版]NBS (日評ベーシック・シリーズ)日本評論社
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