即時取得の要件と効果(1)
(1)要件
Aが所有する甲について、 BがCに対し、 これを無権限で処分した。甲は、 Cがこれを占有しているこの場合において、 Cが甲を即時取得するためには、 次の要件を満たさなければならない。 すなわち、①甲が動産であること、②Bが甲を占有していたこと、③BとCとの間で、有効な取引行為がされたこと ④Cが善意無過失で、平穏に、かつ公然と、 ⑤占有を始めたことである。
では、①③④⑤について、順に検討をおこなう。
(即時取得)
第192条 取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。
(民法・e-Gov法令検索)
(a) 動産
192条の規定は、甲が 「動産」 であるときに適用される。
①登録によって公示されるべき動産
もっとも、即時取得は、Bの占有に対するCの信頼を保護するものである。 そのため、 192条の規定は、甲が登記・登録によって公示されるべき動産であるときは、適用されない。甲が商法上登記を必要とする船舶や登録を受けた自動車であるときは、甲は、登記・登録によって公示されるべき動産であるとされている。この場合には、 192条の規定は、適用されない。
②動産譲渡登記
甲について動産譲渡登記がされているときであっても引渡しによってその譲渡を公示することが妨げられるわけではない。
そのため、この場合にも、 192条の規定が適用される。 もっとも、Cが無過失であるかどうかについて、 厳しい判断がされることがある。
③金銭
金銭については、「占有のあるところに所有権もあり」というル ールが適用される。 この場合には、 192条の規定は、適用されない。
(b) 取引行為
即時取得は、動産取引の安全を確保するためのものである。したがって、C は、「取引行為によって」、Bから甲の占有を取得しなければならない。
(i) 有効な取引行為
BとCとの間で、 売買等がされていないにもかかわらず、たんに甲がBのところからCのところへと移されたとする。この場合には、 192条の規定は、適用されない。 そのような行為は、 「取引行為」ではなく、事実行為だからである。また、BとCとの間でされた取引行為が、公序良俗に反して無効であるとき(90条)や、詐欺により取り消されたとき(96条1項)などにも、 192条の規定は、適用されない。つまり、「取引行為」 は、 有効なものでなければならない。
(公序良俗)
第90条 公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。
(詐欺又は強迫)
第96条 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。
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(ii)取引行為の有償性
売買や交換といった有償行為は、「取引行為」に当たる。これに対し、 無償行為が 「取引行為」に当たるかどうかについては、 争いがある。 たとえば、CがBから甲の贈与を受けたときに、 192条の規定が適用されるかどうかが問題となる。
即時取得は、無権利の法理の例外として、Cに甲の所有権を取得させる一方で、Aから甲の所有権を奪う制度である。 Aが甲の所有権を失うことは、動産取引の安全を確保するためにやむをえないとしても、その犠牲となったAには、相応の代償が与えられるべきである。 そうでなければ、無権利の法理の例外を認めることを正当化することが困難であろう。 有償行為がされたときは、CからBへと支払われる甲の対価が、 不当利得返還請求権 (703条・704条) や代償的取戻権 (破産法64条等) に関する規律のもとで、 Aへと与えられる。
他方、 無償行為がされたときは、Cは、Bに対し、 甲の対価を支払わない。Aに与えられるべき代償の原資を拠出しない者は、原則どおり、甲の所有権を取得する ことができないとみるべきである。 このように考えるならば、 「取引行為」は、無償取引を含まないと解することとなる。
(不当利得の返還義務)
第703条 法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。
(悪意の受益者の返還義務等)
第704条 悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。
(民法・e-Gov法令検索)
(代償的取戻権)
第64条 破産者(保全管理人が選任されている場合にあっては、保全管理人)が破産手続開始前に取戻権の目的である財産を譲り渡した場合には、当該財産について取戻権を有する者は、反対給付の請求権の移転を請求することができる。破産管財人が取戻権の目的である財産を譲り渡した場合も、同様とする。
2 前項の場合において、破産管財人が反対給付を受けたときは、同項の取戻権を有する者は、破産管財人が反対給付として受けた財産の給付を請求することができる。
(破産法・e-Gov法令検索)
(参考)物権法[第3版] NBS (日評ベーシック・シリーズ) 日本評論社
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