動産物権変動における公示と公信(1)
不動産物権変動と動産物権変動との対比
(1)登記と引渡し・占有
不動産物権変動の対抗要件は、 登記である(177条)。 これに対し、動産物権譲渡の対抗要件は、引渡しである (178条)。 もっとも、引渡しの公示力は、 十分ではない。 このことは、とりわけ、 占有改定による引渡しについてあてはまる。
他方、動産取引については、占有の公信力が認められている。(即時取得 (192条))
これに対し、 不動産取引については、登記の公信力は、認められていない。
(不動産に関する物権の変動の対抗要件)
第177条 不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。
(動産に関する物権の譲渡の対抗要件)
第178条 動産に関する物権の譲渡は、その動産の引渡しがなければ、第三者に対抗することができない。
(即時取得)
第192条 取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。
(民法・e-Gov法令検索)
(2) 94条2項類推適用と即時取得
もっとも、不動産取引についても、 94条2項類推適用が認められている。 そのため、不実の登記に対する信頼が、いっさい保護されないわけではないでない。
では、即時取得は、 94条2項類推適用とどこが違うのか。 94条2項類推適用の単独型と比較しておこう。
即時取得では、 ①原権利者の帰責性は、 盗品または遺失物に関する例外(193 条・194条)の限度でしか考慮されない。他方、 ② 第三者は、善意無過失でなければならない。 また、③ 第三者は、一般外観上、 従来の占有状態に変更を 生ずるかたちで引渡しを受けることが必要とされている。
これに対し、 94条2項類推適用の単独型では、①虚偽の外観の作出または存続について、原権利者の意思的関与が求められる。 他方、 ②第三者は、善意であれば足り、無過失までは求められない。 また、③ 第三者は、登記を備えることも、不要であるとされている。
(虚偽表示)
第94条 相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。
2 前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。
(盗品又は遺失物の回復)
第193条 前条の場合において、占有物が盗品又は遺失物であるときは、被害者又は遺失者は、盗難又は遺失の時から二年間、占有者に対してその物の回復を請求することができる。
第194条 占有者が、盗品又は遺失物を、競売若しくは公の市場において、又はその物と同種の物を販売する商人から、善意で買い受けたときは、被害者又は遺失者は、占有者が支払った代価を弁償しなければ、その物を回復することができない。
(民法・e-Gov法令検索)
(参考)物権法[第3版] NBS (日評ベーシック・シリーズ) 日本評論社
コメント