民法を学ぼう!「動産物権変動(10) 即時取得(3)即時取得の要件と効果(2)」

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司法・法務

即時取得の要件と効果(2)

(即時取得)
第192条 取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。
(民法・e-Gov法令検索)

(c) 平穏、公然および善意無過失

まず、平穏、 公然および善意は、 推定される。 この推定は、 Cが甲を占有することによってされる(186条1項)ものとされている。 次に、 無過失も、推定される。この推定は、Bが甲について行使する権利は、適法に有するものと推定される(188条)こと、そして、Cは、そのようなBから、取引行為によって占有を取得した者であることによってされるものである。

(占有の態様等に関する推定)
第186条 占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定する。
(略)
(占有物について行使する権利の適法の推定)
第188条 占有者が占有物について行使する権利は、適法に有するものと推定する。
(民法・e-Gov法令検索)

したがって、即時取得の成立を争う側 (A) が、Cの占有の取得が平穏または公然にされたものでないことや、Cが善意無過失でないことを主張立証しなければならない。

(i) 平穏・公然
Cの占有が暴行もしくは強迫により(つまり、平穏でなく)、 または隠匿により(つまり、公然でなく)取得されたものであるときは、 192条の規定は、適用されない。もっとも、このような場合には、一般に、そもそも取引行為の要件を満たさないものと考えられている。

(ii) 善意無過失
192条が規定する善意無過失とは、Bが権利者としての 外観を有しているため、CがBについて 「外観に対応する権利があるものと誤信し、かつこのように信ずるについて過失のない」ことをいう(最判昭和41.6.9民集20巻5号1011頁)。
つまり、同条の「善意」 は、Bに権利がないことを知らないこと(不知) ではなく、 Bに権利があることを信じていること(誤信)である。
また、同条の 「過失」 があるかどうかは、取引において必要とされる注意を怠らなかったかどうかによって判断される

動産取引は、その性質上、簡易かつ迅速にされるものである。 そこで、一般には、Cに求められる注意の程度は、高くないものとされている。Bに権利があることを疑わせる具体的な事情があるにもかかわらず、Cがしかるべき調査を怠ったときなどに、Cに過失があると判断されるにすぎない。 動産譲渡登記がされているときであっても、Cが動産譲渡登記の有無を調査していないというだけで、常にCに過失があると判断されるわけではない。
もっとも、次のような場合には、Cに過失があると判断される余地がある。
高額な機械設備である甲について、それが活発に譲渡担保に供され、その対抗要件として動産譲渡登記がされるという取引慣行が形成されている場合において、 Cが動産譲渡登記がされているかどうかを調査していなかったときである。

(d) 占有を始めたこと

即時取得が成立するためには、 「占有を始めた」ことが必要である(192条)。
「占有を始めた」とは、CがBから引渡しを受けたことをいう。Cは、単に占有を始めただけでは足りず、 Bとの間でした取引行為に基づいて占有を始めなければならないとされているからである。

現実の引渡しと簡易の引渡しとが 「占有を始めた」に含まれることについては、争いがない。これらの場合には、Cが甲を現実に占有しているからである。
他方、占有改定による引渡しや指図による占有移転が 「占有を始めた」 に 含まれるかどうかについては、争いがある。

(2) 効果

192条の定める要件を満たしたときは、動産の占有者は、「即時にその動産について行使する権利を取得」する。即時取得は、原始取得の一種である。また、その対象となる権利は、所有権(担保目的のものも含む)および質権に限られる。
もっとも、動産先取特権については、 192条の規定が準用されている(319条)。

(即時取得の規定の準用)
第319条 第百九十二条から第百九十五条までの規定は、第三百十二条から前条までの規定による先取特権について準用する。
(民法・e-Gov法令検索)

参考)物権法[第3版] NBS (日評ベーシック・シリーズ) 日本評論社

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