民法を学ぼう!「動産物権変動(2)動産物権譲渡の対抗要件(2)」

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司法・法務

(b)観念的引渡しの正当化

現実の引渡しがされたときは、動産の所在は、譲渡人から譲受人へと現実に移される。これにより、 譲渡がされたことが、 外形上明らかとなる。これに対し、観念的引渡しがされたときは、 動産の所在は、現実には動かない。そのため、観念的引渡しが178条の 「引渡し」、つまり動産物権譲渡の対抗要件として認められているのはなぜなのかが問題となる

(1)一定の公示力

観念的引渡しにも、公示力がないわけではない。 動産を譲り受けようとする者が、その動産を所持する者に対し、その動産の所有者が誰であるかについて照会をすれば、その者から回答を得ることができる。指図による占有移転では、物を所持する者は、譲渡の当事者ではないものの、 債権譲渡における債務者と同じように(467条2項)、 譲渡人からの通知によって、 譲渡がされたことについての認識を得ている。

もっとも、この問い合わせによる公示が十分に機能するかどうかは、回答者である動産の所持者の立場による。 すなわち、簡易の引渡しでは、譲渡によって利益を受ける者が動産の所持者であり、また、指図による占有移転では、譲渡によって利益も不利益も受けない者が動産の所持者である。したがって、その者に照会をすれば、 その動産の譲渡にかかる情報について、 正しい回答がされる可能性が高い。 これに対し、 占有改定による引渡しでは、 動産の所持者は、譲渡によって不利益を受ける者である。
したがって、この者に照会をしたとしても、その動産が譲渡されていることが隠されてしまうおそれがある。

このため、占有改定による引渡しを178条の 「引渡し」 に含めることに対し、疑問を投げかけるものがある。

(2)不合理なコストの回避

では、占有改定による引渡しを178条の「引渡し」に含めないとしたら、どうなるか。 この場合には、動産物権譲渡の当事者は、占有改定による引渡しによって対抗要件を備えたのと同じ状態を実現するために、次の方法をとることとなろう。 すなわち、譲渡人が譲受人に対し、いったん現実の引渡しをおこない、これにより対抗要件を備えた後で、ふたたび譲受人からその動産を自分のところに戻してもらう方法である。 しかし、動産物権譲渡の当事者がその対抗要件を備えるために、動産をいったりきたりし なければならなくなるのは、不合理である。 このように、不合理なコストが生ずることを回避するという考え方は、占有改定による引渡しのみならず、簡易引渡しと指図による占有移転についても、 あてはまるものとされている

(3)占有の公信力による補完

占有改定による引渡しは、公示力が低い
そのため、占有改定による引渡しをもって動産物権譲渡の対抗要件を備えることを認めると、動産取引の安全を害するおそれがある。 しかし、この問題は、公信の原則を定める即時取得制度(192条)により対処されている。 すなわち、譲渡人が動産を占有していることから、その者がその動産の所有者 であると過失なく信じてその動産を買い受け、 その動産の占有を始めた者は、 その動産の所有権を取得することができる。 占有改定による引渡しの公示力の 低さが、占有の公信力によって補完されているわけである。

参考)物権法[第3版] NBS (日評ベーシック・シリーズ) 日本評論社

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