今回は、医薬品による副作用等にかかる主な訴訟をまとめてみました。
サリドマイド訴訟
被告:国及び製薬企業
原因薬剤:サリドマイド製剤
用途:妊娠している女性が、催眠鎮静剤等として使用
症状:
妊娠している女性が摂取した場合、サリドマイドは血液-胎盤関門を通過して胎児に移行する。
胎児はその成長の過程で、 諸器官の形成のため細胞分裂が活発に行われるが、血管新生が妨げられると細胞分裂が正常に行われず、器官が十分に成長しないことから、四肢欠損、視聴覚等の感覚器や心肺機能の障害等の先天異常が発生する。
なお、血管新生を妨げる作用は、サリドマイドの光学異性体(化学的配列は同じで立体構造が異なる)のうち、一方の異性体(S体)のみが有する作用であり、もう一方の異性体(R体)にはなく、また、鎮静作用はR体のみが有するとされている。サリドマイドが摂取されると、R体とS体は体内で相互に転換するため、R体のサリドマイドを分離して製剤化しても、催奇形性は避けられない。
経緯:
1961年11月、西ドイツのレンツ博士がサリドマイド製剤の催奇形性について警告を発し、西ドイツでは製品が回収されるに至った。一方、日本では、同年12月に西ドイツ企業から勧告が届いており、かつ翌年になってからもその企業から警告が発せられていたにもかかわらず、出荷停止は1962年5月まで行われず、販売停止及び回収措置は同年9月であるなど、対応の遅さが問題視された。
スモン訴訟
被告:国及び製薬企業
原因薬剤:キノホルム製剤
用途:整腸剤
症状:
亜急性脊髄視神経症(英名Subacute Myelo-Optico-Neuropathy の頭文字をとってスモンと呼ばれる。)に罹患し、その症状として、初期には腹部の膨満感から激しい腹痛を伴う下痢を生じ、次第に下半身の痺れや脱力、歩行困難等が現れる。麻痺は上半身にも拡がる場合があり、ときに視覚障害から失明に至ることもある。
経緯:
米国では1960年にアメーバ痢への使用に限ることが勧告された。日本では、1970年8月になって、スモンの原因はキノホルムであるとの説が発表され、同年9月に販売が停止された。
スモン患者に対する施策や救済制度として、治療研究施設の整備、治療法の開発調査研究 の推進、施術費及び医療費の自己負担分の公費負担、世帯厚生資金貸付による生活資金の貸付のほか、重症患者に対する介護事業が講じられている。
安全対策:
サリドマイド訴訟、スモン訴訟を契機として、1979年、医薬品の副作用による健康被害の迅速な救済を図るため、医薬品副作用被害救済制度が創設された。
HIV訴訟
被告:国及び製薬企業
原因薬剤:ヒト免疫不全ウイルス(HIV)が混入した原料血漿(しょう)から製造された血液凝固因子製剤
用途:血友病患者に使用
症状:HIVに感染
安全対策:
- エイズ治療・研究開発センター及び拠点病院の整備や治療薬の早期提供等の様々な取り組みを推進
- 医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構(当時)との連携による承認審査体制の充実
- 製薬企業に対し従来の副作用報告に加えて感染症報告の義務づけ
- 緊急に必要とされる医薬品を迅速に供給するための「緊急輸入」制度の創設
- 血液製剤の安全確保対策として検査や献血時の問診の充実
- 薬事行政組織の再編、情報公開の推進、健康危機管理体制の確立
CJD訴訟
被告:国、輸入販売業者及び製造業者
原因薬剤:脳外科手術等に用いられていたヒト乾燥硬膜に細菌でもウイルスでもないタンパク質の一種であるプリオンが感染
用途:脳外科手術
経緯:プリオン不活化のための十分な化学的処理が行われないまま製品として流通し、脳外科手術で移植された患者にCJDが発生した。
症状:
クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)→次第に認知症に類似した症状が現れ、死に至る重篤な神経難病である。
安全対策:
- 生物由来製品の安全対策強化
- 独立行政法人医薬品医療機器総合機構による生物由来製品による感染等被害救済制度の創設
- CJD患者の入院対策・在宅対策の充実、
- CJDの診断・治療法の研究開発
- CJDに関する正しい知識の普及・啓発
- 患者家族・遺族に対する相談事業等に対する支援
- CJD症例情報の把握
- ヒト乾燥硬膜の移植の有無を確認するための患者診療録の長期保存等の措置が講じられるようになった。
C型肝炎訴訟
被告:国及び製薬企業
原因薬剤:フィブリノゲン製剤、血液凝固第Ⅸ因子製剤
用途:出産や手術での大量出血などの際に投与
症状:C型肝炎ウイルスに感染
経緯:
2002年から2007年にかけて、5つの地裁で提訴されたが、2006年から2007年にかけて言い渡された5つの判決は、国及び製薬企業が責任を負うべき期間等について判断が分かれていた。
早期・一律救済の要請にこたえるべく、議員立法によってその解決を図るため、2008 年1月に特定フィブリノゲン製剤及び特定血液凝固第Ⅸ因子製剤によるC型肝炎感染被害者を救済するための給付金の支給に関する特別措置法が制定、施行された。
国では、この法律に基づく給付金の支給の仕組みに沿って、現在、和解を進めている。
安全対策:
「薬害再発防止のための医薬品行政等の見直しについて(最終提言)」(平成22年4月28日薬害肝炎事件の検証及び再発防止のための医薬品行政のあり方検討委員会)を受け、 医師、薬剤師、法律家、薬害被害者などの委員により構成される医薬品等行政評価・監視委員会が設置された。
(参考)改訂版 この1冊で合格! 石川達也の登録販売者 テキスト&問題集 (KADOKAWA)
登録販売者試験問題作成に関する手引き(令和5年4月)(厚生労働省
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