今回は、「薬が働く仕組み」についてまとめてみました。
医薬品の作用
医薬品の作用には、有効成分が消化管などから吸収されて循環血液中に移行し、全身を巡って薬効をもたらす全身作用と、特定の狭い身体部位において薬効をもたらす局所作用とがある。
内服した医薬品が全身作用を現わすまでには、消化管からの吸収、代謝と作用部位への分布という過程を経るため、ある程度の時間が必要であるのに対し、局所作用は医薬品の適用部位が作用部位である場合が多いため、反応は比較的速やかに現れる。
薬の生体内運命
有効成分の吸収
①消化管吸収
内服薬のほとんどは、その有効成分が消化管から吸収されて循環血液中に移行し、全身作用を現す。
有効成分の溶出は、主に胃、吸収は、吸収は主に小腸で行われる。
一般に、消化管からの吸収は、濃度の高い方から低い方へ受動的に拡散していく現象である。
有効成分の吸収量や吸収速度は、消化管内容物や他の医薬品の作用によって影響を受ける。また、有効成分によっては消化管の粘膜に障害を起こすものもある。
② 内服以外の用法における粘膜からの吸収
内服以外の用法で使用される医薬品には、適用部位から有効成分を吸収させて、全身作用を発揮させることを目的とするものがある。
坐剤(ざざい)・・・肛門から医薬品を挿入することにより、直腸内で溶解させ、薄い直腸内壁の粘膜から有効成分を吸収させるものである。直腸の粘膜下には静脈が豊富に分布して通っており、有効成分は容易に循環血液中に入るため、内服の場合よりも 全身作用が速やかに現れる。
抗狭心症薬のニトログリセリン(舌下錠、スプレー)、禁煙補助薬のニコチン(咀嚼剤)・・・有効
成分が口腔粘膜から吸収されて全身作用を現すものもある。
点鼻薬・・・一般用医薬品には全身作用を目的とした点鼻薬はなく、いずれの医薬品も、鼻腔粘膜への局所作用を目的として用いられている。しかし、鼻腔粘膜の下には毛細血管が豊富なため、点鼻薬の成
分は循環血液中に移行しやすい。
点眼薬・・・鼻涙管を通って鼻粘膜から吸収されることがある。従って、眼以外の部位に到達して副作用を起こすことがあるため、場合によっては点眼する際には目頭の鼻涙管の部分を押さえ、有効成分が鼻に流れるのを防ぐ必要がある。
含嗽(がんそう)薬(うがい薬)・・・その多くが唾液や粘液によって 食道へ流れてしまうため、咽頭粘膜からの吸収が原因で全身的な副作用が起こることは少ない。
※ただし、アレルギー反応は微量の抗原でも生じるため、点眼薬や含嗽薬(うがい薬)等でもショック(アナフィラキシー)等のアレルギー性副作用を生じることがある。
③ 皮膚吸収
皮膚に適用する医薬品(塗り薬、貼り薬等)は、適用部位に対する局所的な効果を目的とするものがほとんどである。
有効成分が皮膚から浸透して体内の組織で作用する医薬品の場合は、浸透する量は皮膚の状態(加齢等により皮膚のみずみずしさが低下すると、有効成分が浸潤・拡散しにくくなる。)、傷の有無やその程度などによって影響を受ける。
通常は、皮膚表面から循環血液中へ移行する量は比較的少ないが、粘膜吸収の場合と同様に、血液中に移行した有効成分は、肝臓で代謝を受ける前に血流に乗って全身に分布するため、適用部位の面積(使用量)や使用回数、その頻度などによっては、全身作用が現れることがある。また、アレルギー性の副作用は、適用部位以外にも現れることがある。
薬の代謝、排泄
代謝とは、物質が体内で化学的に変化することであるが、有効成分も循環血液中へ移行して体内を循環するうちに徐々に代謝を受けて、分解されたり、体内の他の物質が結合するなどして構造が変化する。その結果、作用を失ったり(不活性化)、作用が現れたり(代謝的活性化)、あるいは体外へ排泄されやすい水溶性の物質に変化したりする。
排泄とは、代謝によって生じた物質(代謝物)が尿等で体外へ排出されることであり、有効成分は未変化体のままで、あるいは代謝物として、腎臓から尿中へ、肝臓から胆汁中へ、又は肺から呼気中へ排出される。体外への排出経路としては、その他に汗中や母乳中などがあるが、 体内からの消失経路としての意義は小さい。ただし、有効成分の母乳中への移行は、乳児に対する副作用の発現という点で、軽視することはできない。
① 消化管で吸収されてから循環血液中に入るまでの間に起こる代謝
経口投与後、消化管で吸収された有効成分は、消化管の毛細血管から血液中へ移行する。 その血液は全身循環に入る前に門脈という血管を経由して肝臓を通過するため、吸収された有効成分は、まず肝臓に存在する酵素の働きにより代謝を受けることになる。
したがって、全身循環に移行する有効成分の量は、消化管で吸収された量よりも、肝臓で代謝を受けた分だけ少なくなる(これを肝初回通過効果 (first-pass effect) という)。
肝機能が低下した人では医薬品を代謝する能力が低いため、正常な人に比べて全身循環に到達する有効 成分の量がより多くなり、効き目が過剰に現れたり、副作用を生じやすくなったりする。
なお、薬物代謝酵素の遺伝子型には個人差がある。
② 循環血液中に移行した有効成分の代謝と排泄
循環血液中に移行した有効成分は、主として肝細胞の薬物代謝酵素によって代謝を受ける。多くの有効成分は血液中で血漿タンパク質と結合して複合体を形成しており、複合体を形成している有効成分の分子には薬物代謝酵素の作用で代謝されず、またトランスポーターによって輸送されることもない。したがって、代謝や分布が制限されるため、血中濃度の低下は徐々に起こる。
トランスポーター・・・細胞膜の脂質二重層を貫き、埋め込まれて存在する膜貫通タンパク質で、細胞膜の外側から内側へ極性物質、イオンを選択的に運ぶ。
循環血液中に存在する有効成分の多くは、未変化体又は代謝物の形で腎臓から尿中に排泄される。従って腎機能が低下した人では、正常の人よりも有効成分の尿中への排泄が遅れ、血中濃度が下がりにくい。そのため、医薬品の効き目が過剰に現れたり、副作用を生じやすくなったりする。
排泄の過程においても血漿タンパク質との複合体形成は重要な意味を持つ。複合体は腎臓で濾過されないため、有効成分が長く循環血液中に留まることなり、作用が持続する原因となる。
(参考)改訂版 この1冊で合格! 石川達也の登録販売者 テキスト&問題集 (KADOKAWA)、
登録販売者試験問題作成に関する手引き(令和5年4月)(厚生労働省)
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