本稿は、「マンション管理士試験」の出題範囲のうち、民法の頻出論点をまとめたものである。
物権変動と対抗要件
物権変動とは
「物」に対する権利が「変動(発生、移転、消滅)」すること。
物権変動は、当事者の意思表示が合致したときに生じる。第三者に物権変動を主張するためには対抗要件が必要となる。不動産では、「登記」、動産では「引渡し」である。
不動産の二重譲渡と対抗要件
不動産の二重譲渡では、「契約」や「代金の支払い」などの先後ではなく、「登記」の先後で所有権の取得が決まる。
不動産の二重譲渡で、譲受人(買主)のいずれもが所有権の移転登記を備えていなければ、両者は互いに所有権の取得を対抗できない。
抵当権についても、「契約」の先後ではなく、「登記」の先後で優劣が決まる。
登記がなくても対抗しうる「第三者」
- 無権利者
- 不法行為者、不法占拠者
- 背信的悪意者
- 詐欺または強迫によって登記申請を妨げた者
- 他人のために登記申請をする義務がある者
なお、建物の区分所有者が自己の専有部分を売却した後に死亡して、相続が開始された場合、相続人は包括承継人として買主とは当事者の関係になり、買主は所有者の移転登記がなくても相続人に当該専有部分の所有権を主張できる。
物権変動と登記
所有権と所有権以外の登記
先に登記した権利が優先される。
所有権以外の登記とは抵当権など。
取消と登記
(事例)
- 甲が乙の詐欺により甲所有の専有部分を乙に売却した。
- さらに乙が丙に当該専有部分を売却した。
- 甲が詐欺を理由に契約を取消した。
取消前の第三者
この事例では、甲の取消前に第三者丙が登場しており、丙が善意無過失なら登記がなくても丙の勝ちとなる。第三者保護規定(民法96条3項)
なお、丙が悪意または、善意有過失なら甲の勝ちとなる。
取消後の第三者
これに対し、先の事例で、甲が詐欺を理由に契約を取消した後に、乙が丙に当該専有部分を売却した場合、甲の取消後に第三者丙が登場しており、甲と丙のどちらが先に登記を得たかで優劣が決まる。
これは、乙を起点として、甲と丙に所有権が二重譲渡されたのと類似の状況が生じるので、どちらが先に登記を得たかで優劣が決まるとされる。
解除と登記
解除前の第三者
(事例)
- 甲が乙に甲所有の専有部分を売却した。
- さらに乙が丙に当該専有部分を売却した。
- 甲が乙の債務不履行を理由に契約を解除した。
この事例では、甲の取消前に第三者丙が登場しているが、先の取消前の第三者とは異なり、丙が保護されるには登記が必要とされる。
解除後の第三者
これに対し、先の事例で、甲が債務不履行を理由に契約を解除した後に、乙が丙に当該専有部分を売却した場合、甲の解除後に第三者丙が登場しているが、これは、先の取消後の第三者と同様に、二重譲渡と類似した状況となるため、どちらが先に登記を得たかで優劣が決まる。
遺産分割と登記
遺産分割前の第三者
(事例)
甲が死亡し、相続人乙、丙が甲所有の専有部分を共同相続(持ち分は2分の1ずつ)した。
その後、遺産分割前に丙が当該専有部分を丙単独で相続した旨を勝手に登記して、全部を丁に売却した。
乙は、自己の持ち分である2分の1については、登記なくして丁にその権利を主張できる。
なお、相続人乙、丙により、乙が当該専有部分すべてを相続する旨の遺産分割協議前に、丙が丁に対して丙の法定相続分を売却し、丁が所有権移転登記を済ませた場合、乙は丁に対してその専有部分全部の所有権を主張することはできない。
遺産分割後の第三者
先の事例で、「甲が死亡し、相続人乙、丙が、甲所有の専有部分を共同相続(持ち分は2分の1ずつ)した」後に、遺産分割によって乙が単独で当該専有部分の所有権を取得した。この状況で、丙が遺産分割前に所有していた自己の相続分(2分の1)を丁に売却した場合、乙は、遺産分割に基づく所有権移転登記なくして丁に対してその専有部分に係る丙の法定相続分の権利の取得を対抗できない。
(民法899条の2第1項)
(共同相続における権利の承継の対抗要件)
第899条の2 相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。
(略)
民法・e-GOV法令検索
(参考)
らくらくわかる! マンション管理士 速習テキスト 2023年度(TAC出版)
C-Book 民法II〈物権〉 改訂新版(東京リーガルマインド)
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