消滅時効とは
消滅時効とは、権利不行使の状態が、一定期間継続することによって、権利消滅の効果を生ずる時効をいう。民法では、消滅時効にかかる権利として、債権(166条1項)と債権又は所有権以外の財産権(同条2項)を規定している。
債権の消滅時効とその要件
民法は、一般の債権の消滅時効について規定を設けた上で、(166条1項)
人の生命または身体の侵害による損害賠償請求権(167条)、定期金債権(168条)、判決で確定した権利(169条)について、特則を設けている。
一般の債権の消滅時効
166条1項は、債権の消滅時効の一般規定として、主観的起算点による時効と、客観的起算点による時効という二重の時効期間を規定している。
主観的起算点から5年の消滅時効
166条1項1号は、債権は、「債権者が権利を行使することができることを知った時」から5年間行使しないときに時効により消滅する旨規定する。(主観的起算点)
客観的起算点から10年の消滅時効
166条1項2号は、「権利を行使することができる時から10年間行使しないとき」に、債権は、時効により消滅する旨規定する。(客観的起算点)
「権利を行使することができる時」とは
客観的起算点(166条1項2号)
権利の行使について、法律上の障害がなくなり、権利行使が法的に可能性となったことが必要である。なお、事案によっては、法律上の障害がなくなってもなお、客観的に権利行使の期待可能性が認められない場合もあり、このような事案において、判例は、「権利を行使することができる時」とは、権利の行使につき法律上の障害がなく、さらに権利の性質上、その権利行使が現実に期待できる時のことであるとする。(最大判昭45.7.15民集 第24巻7号771頁)
法律上の障害の例としては、債権に停止条件・期限が付されている場合が挙げられる。
(例外1)不法行為による損害賠償請求権の特則
不法行為による損害賠償請求権も債権であるが、これについては、724条に特則を設けている。
① 「被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時」(主観的起算点)から3年間行使しないとき。(1号)
②「不法行為の時」(客観的起算点)から20年間行使しないとき。(2号)
時効によって消滅する。
(例外2)人の生命または身体の侵害による損害賠償請求権
① 「被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時」(主観的起算点)から5年間(724条の2)
② 「権利を行使することができる時」(客観的起算点)から20年間(167条)
主観的起算点から | 客観的起算点から | |
---|---|---|
原則(166条) | 5年 | 10年 |
不法行為による損害賠償請求権(724条) | 3年 | 20年 |
人の生命または身体の侵害による損害賠償請求権(724条の2,167条) | 5年 | 20年 |
(例外3)定期金債権
① 「債権者が定期金の債権から生ずる金銭その他の物の給付を目的とする各債権を行使することができることを知った時」(主観的起算点)から10年間行使しないとき。(168条1項1号)
② 「各債権を行使することができる時」(客観的起算点)から20年間行使しないとき。(168条1項2号)
(例外4)判決で確定した権利
確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって確定した権利については、10年より短い時効期間の定めがあるものであっても、その時効期間は、10年とする。(169条1項)
なお、確定の時に弁済期の到来していない債権については、適用しない。(同2項)
債権以外の財産権の消滅時効
所有権は消滅時効にかからない
債権又は所有権以外の財産権は、権利を行使することができる時から20年間行使しないときは、時効によって消滅する。(166条2項)
→所有権は消滅時効にかからないことを明らかにしている。
債権又は所有権以外の財産
地上権、永小作権及び地役権
166条2項による消滅時効の対象となる権利の典型的な例である。
占有権、留置権
不行使によって消滅時効にかかる余地はない。
担保物権
原則として、被担保債権と離れて消滅時効にかかることはない。
しかし、抵当権は、債務者及び抵当権設定者以外の者との関係で、被担保債権と離れて166条2項により20年の消滅時効にかかる。(396条の反対解釈。大判昭15.11.26)
抵当権は、債務者及び抵当権設定者に対しては、その担保する債権と同時でなければ、時効によって消滅しない。(396条)
存続期間の定めのない形成権
判例(最判昭62.10.8等)は解除権については、債権に準ずるものとして扱うとしている。
消滅時効の効果
消滅時効が完成すれば、権利は消滅する。ただし、債務者等は、時効を援用することによって時効の利益を得ることができる。(145条)
時効は、当事者(消滅時効にあっては、保証人、物上保証人、第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者を含む。)が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。(145条)
また、時効の効力は起算点にさかのぼって生じる。(144条:時効の遡及効)
(参考文献)民法総則「第2版」 原田 昌和 他(著)(日本評論社)、新プリメール民法1 民法入門・総則〔第3版〕中田 邦博 他(著)(法律文化社)、C-Book 民法I〈総則〉 改訂新版(東京リーガルマインド)
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