今回のテーマは、「時効と登記」である。
時効と登記
判例ー5つのルール
時効による権利取得も、物権変動の一因である。
(所有権の取得時効)
第162条 20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
2 10年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。
(民法・e-Gov法令検索)
このように、取得時効制度は占有を基礎として成立するものであって、登記が成立要件とされているわけではない。
このため、占有者が未登記であっても時効による権利取得が認められるのが原則である。
判例は、時効と登記の問題に関して5つのルールをたてている。
Aが所有する甲土地を、Bが所定の要件を満たしつつ善意無過失で10年以上、またはそれ以外で20年以上占有している場合には、Bが甲を取得して、Aはその所有権を失う。
当事者間の関係(ルール①)
この事例のBの所有権取得は、原始取得であるとされる。判例は、AB間の関係を当事者間の関係と解している。
よって、Bが時効による所有権取得をAに主張するにあたって、登記は要求されない。
時効完成前の第三者(ルール②)
判例は、Bの時効完成前に第三者Cが現れた場合は、BC間を当事者間の関係であるとみる。(最判昭和41.11.22民集20巻9号1901頁)
Bの時効が完成した時点での相手方はCであるため、BとCは177条の対抗関係に立たないとする。
したがって、Bは未登記で自らの権利取得をCに対して主張できる。
時効完成後の第三者(ルール③)
Bの時効完成後にCが現れた場合は、AからBへの時効による物権変動とAからCへの物権変動を同レベルのものと考えて、二重譲渡類似の関係であるとする。
このため、177条の適用を認めて、BC間は第三者関係であって、登記が対抗要件になると判例は解している。(大連判大正14.7.8民集4巻412頁)
時効の起算点(ルール④)
判例は、Cの登場時期がBの取得時効完成の前後で異なる処理をしているため、Bの時効期間の起算点を任意にずらすことは認めない。(最判昭和35.7.27民集14巻10号1871頁)
すなわち、起算点はBが占有を開始したその時点で確定される。
時効期間は、時効の基礎たる事実の開始された時を起算点として計算すべきもので、時効援用者において起算点を選択し、時効完成の時期を早めたり遅らせたりすることはできない。
裁判要旨ー最判昭和35.7.27民集14巻10号1871頁
再度の時効取得(ルール⑤)
時効完成後の第三者Cが先に甲の登記を経由し、BがCに対抗できなくなったことが確定した後(ルール③)、Bがさらに甲を占有し続け、所定の要件を満たした上で、再度所定の期間が経過した場合はどうか。
この場合、BとCの関係は当事者間の関係となり、Bは未登記で時効の完成による権利取得をCに対して主張できる。(最判昭和35.7.20民集15巻7号1903頁)
(参考)物権法[第3版] NBS (日評ベーシック・シリーズ) 日本評論社
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