今回のテーマは、「相続と登記」である。
相続と登記
所有権の移転は、相続によっても生じる。(民法896条本文)
(相続の一般的効力)
第896条 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。
(略)
(民法・e-Gov法令検索)
被相続人Aが死亡する前にBに甲土地を譲渡したところ、その登記をBが経由する前に、CがAを単独相続し、Dに甲を譲渡したとする。
この場合、Aの包継承人のCを起点とするBとDに対する二重譲渡が発生し、対抗問題として、登記が優劣決定基準となる。(民法177条)
ここで、問題となるのは、相続人が複数存在する場合である。
被相続人Aに共同相続人としてBとCがいたとする。
以下の法律関係となる。
(子及びその代襲者等の相続権)
第887条 被相続人の子は、相続人となる。
(略)
(法定相続分)
第900条 同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。
一 子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各2分の1とする。
(民法・e-Gov法令検索)
Aの死後、BとCがAの唯一の遺産である甲土地を相続したとする。
以下の法律関係となる。
(共同相続の効力)
第898条 相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。
(略)
(遺産の分割の協議又は審判)
第907条 共同相続人は、次条第一項の規定により被相続人が遺言で禁じた場合又は同条第二項の規定により分割をしない旨の契約をした場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる。
(略)
(民法・e-Gov法令検索)
遺産分割が行われると、その効果は相続開始時に遡る。(909条本文)
共同相続と登記
上記の事例で、共同相続の登記がなされていない間に、かつ、遺産分割がなされる前に、Cが書類を偽造して単独で甲を相続した旨の登記を行い、第三者Dに甲を譲渡したとする。
判例は、Bの持分権の対象である甲の2分の1については、Cの登記は無権利の登記であり、無効であるので、DはCからBの持分権を譲り受けることはできないとしている。
(最判昭和38.2.22第17巻1号235頁)
遺産分割と登記
被相続人Aに共同相続人としてBとCがいたとする。Aの遺産に属する甲土地については、遺産分割により、Bが単独相続することになった。しかし、その遺産分割の前後において、第三者Dが甲に関するCの持分権を差押えたとする。
遺産分割前の第三者
判例は、Dの登場時期が遺産分割の前後において区別する。
遺産分割前にDが現れた場合、909条ただし書の適用により、遺産分割の遡及効が制限され、Dが保護される。ただし、権利保護資格要件として、登記が必要であるとするのが通説である。
(遺産の分割の効力)
第909条 遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。
(民法・e-Gov法令検索)
遺産分割後の第三者
これに対して、遺産分割後にDが現れた場合、Cの法定相続分については、遺産分割に基づいて、相続による不動産物権のBへの承継があったとみることができる。遺産分割には遡及効があり、BはAから甲を単独相続することになったのである。このため、899条の2第1項が適用され、登記が対抗要件となる。
(共同相続における権利の承継の対抗要件)
第899条の2 相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。
(略)
(民法・e-Gov法令検索)
相続放棄と登記
(相続の承認又は放棄をすべき期間)
第915条 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
(略)
(相続の放棄の効力)
第939条 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。
(民法・e-Gov法令検索)
被相続人Aに相続人として子BとCがいたとする。甲が遺産であるところ、Cが相続放棄したとすると、Bが単独相続することになる。しかし、第三者Dが甲に関するCの法定相続分を差押えたとする。
相続放棄前の第三者
Cが放棄する前にDがCの相続分を差し押さえた場合、Bは登記を要することなく、甲を取得することをDに対抗できる。
相続放棄後の第三者
これに対して、Cが放棄後にDが登場した場合、遺産分割のケースと同様に考えると、CD間の対抗問題として処理され、899条の2第1項が適用され、登記が対抗要件となるはずである。
しかし、判例は、Cが放棄後にDが登場した場合であっても、Bは登記なくして、Dに対抗することができるとしている。(最判昭和42.1.20第21巻1号16頁)
「相続させる」旨の遺言と登記
被相続人Aが甲土地を相続人Bに遺贈するのではなく、「相続させる」旨の遺言(1014条2項)を残すことがある。
この遺言は、原則として、遺産分割の指定(908条)と解される。
この場合、Aが死亡すると同時にBに甲が相続される。
なお、899条の2が新設され、承継した財産のうち、法定相続分を超える部分について、登記を備えなければ、第三者に対抗することができない。
(遺産の分割の方法の指定及び遺産の分割の禁止)
第908条 被相続人は、遺言で、遺産の分割の方法を定め、若しくはこれを定めることを第三者に委託し、又は相続開始の時から5年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずることができる。
2 共同相続人は、5年以内の期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割をしない旨の契約をすることができる。ただし、その期間の終期は、相続開始の時から10年を超えることができない。
(略)
(民法・e-Gov法令検索)
遺贈と登記
被相続人Aが生前に相続人Bに対して甲を贈与する旨の遺言(964条本文)を残していたとする。(遺贈)
ここで、Aが死亡すると、遺言の効果が発生し、甲の所有権はAから直接Bに移転する。(985条1項)
ところが、Bが甲に関する登記を経由しないでいたところ、Aの相続人CがDに甲を譲渡した場合、BはDに対して、自らの所有権取得を主張するのに登記を要するか。
判例は、登記を必要とする。(最判昭和39.3.6第18巻3号437頁)
遺贈がなされたことにより対抗問題が発生した場合、一律に、不動産物権変動の対抗問題一般を規律している177条を適用して、登記によって優劣を決める。
(参考)物権法[第3版] NBS (日評ベーシック・シリーズ) 日本評論社
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