民法を学ぼう!「動産物権変動(1)動産物権譲渡の対抗要件(1)」

スポンサーリンク
司法・法務

動産物権譲渡の対抗要件(1)

178条によれば、動産に関する「物権の譲渡」は、その「引渡し」がなければ、「第三者に対抗することができない」。 この文言から明らかなように、動産物権譲渡の対抗要件のルールは、不動産物権変動の対抗要件のルール (177条) と、基本的に共通している。 そこで、以下では、動産物権譲渡の対抗要件のルールのうち、動産物権譲渡に特有の問題を取り上げる。

1 対抗要件

(1)引渡し

動産物権譲渡の対抗要件は、引渡し、つまり意思に基づく占有の移転である。たしかに、物権変動の公示という観点からは、引渡しよりも、登記のほうが優れている。しかし、動産は、その数が膨大である。 そのため、不動産登記のように、一つひとつの物を単位として登記を編成する(物的編成主義)ことは、難しい。 また、動産取引は、きわめて頻繁にされるものである。そのため、動産物権譲渡の対抗要件は、これを簡易かつ迅速に備えることができるようにする必要がある。 そこで、 民法は、動産物権譲渡の対抗要件を引渡しと定めている。

(a) 動産物権譲渡の対抗要件としての引渡しの方法

動産物権譲渡の対抗要件としての引渡しには、4つの方法がある。 AがBに対し、自分が所有し、かつ占有している絵画(甲)を譲渡した場合において、 その譲渡の対抗要件を備えるために引渡しをすることを例に説明をおこなう。

①現実の引渡し
AとBは、AからBへと占有を移転する旨を合意し、A からBへと甲の所持を移転することによって、 引渡しをすることができる。こ れを、 現実の引渡しという(182条1項)。

②簡易の引渡し
BがAから甲を賃借してこれを利用している間に、Aから甲の譲渡を受けることがある。
このように、AからBへの譲渡がされる前に、Bの側が甲を所持しているときは、AとBは、AからBへと占有を移転する旨を合意することによって引き渡しをすることができる。この方法を、簡易 の引渡しという (182条2項)。同項の「譲受人」に当たるのは、Bである。

③占有改定
AがBに対し、 甲を譲渡した場合において、 BがAに対し、 そのまま甲の保管を委ねることがある。 また、 AがBに対し、 BのAに対する 貸金債権を担保する目的で甲を譲渡した場合 (譲渡担保 )において、 Aが甲を利用し続けることもある。 このように、AからBへの譲渡がされる前に、Aの側が甲を所持しているときは、AとBは、AがBの占有代理人として、以後Bのために甲を占有する旨を合意することによって、 引渡しをすることができる。この方法を、 占有改定という (183条)。 同条の「本人」に当たるのは、Bであり、同条の 「代理人」 に当たるのは、 Aである。
同条には、「代理人 [A] が・・・・・・意思を表示した」 とあるものの、当事者の合意が必要であるとされている。

④指図による占有移転
AがCに対し、甲の保管を委ねている間に、BがAから甲の譲渡を受けることがある。このように、AからBへの譲渡がされる 前に、AがCを占有代理人として甲の占有をしているときは、AとBは、AからBへと占有を移転する旨を合意し、AがCに対し、 以後Bのために甲を占有することを命ずることによって、 引渡しをすることができる。 この方法を、指図による占有移転という(184条)。 同条の「本人」に当たるのは、Aであり、 同条の「代理人」に当たるのは、 Cであり、同条の 「第三者」に当たるのは、Bである。

②から④までの方法による引渡しでは、①の方法による引渡しとは異なり、 動産の所在は、現実には動かない 。 そのため、これらの方法に よる引渡しは、観念的引渡しとよばれている。 上記のように、③と④との方法 による引渡しでは、占有代理人の概念が登場する。 占有は、 本人が占有代理人をとおしてこれを取得することができる(181条)。この場合において本人が取 得する占有のことを、代理占有という。 代理占有と占有代理人が取得する占有 は、それぞれ、間接占有直接占有とよばれることが多い 。 また、 所有の意思をもってする占有のことを、自主占有とよび、そうでない占有のことを、他主占有とよぶ 。

参考)物権法[第3版] NBS (日評ベーシック・シリーズ) 日本評論社 

コメント

タイトルとURLをコピーしました