II 明認方法による公示
1 立木所有権の譲渡と留保
(1) 立木所有権の譲渡
① 立木の譲渡 対 立木の譲渡
Aが所有する甲土地の上に生立する乙立木について AからBへと売却がされた後、 AからCへと売却がされた。 乙立木の所有権の取得について、 BとCとの間の優劣は、乙立木について、どちらが先に明認方法を施したかによって定まる。
② 土地+ 立木の譲渡 対 土地 + 立木の譲渡
Aが所有する甲土地およびその上に生立する乙立木について、AからBへと売却がされた後、AからCへと売却がされた。Cが甲土地について所有権移転登記を備えたときは、Cは、 甲土地の所有権の取得のみならず、 乙立木の所有権の取得についても、第三者であるBに対抗することができる。
もっとも、この場合において、Cが甲土地について所有権移転登記を備える前に、Bが乙立木について明認方法を施したときは、Bは、乙立木の所有権の取得については、第三者であるCに対抗することができるとみるべきである (大判昭和9・12・28民集13巻2427頁)。
③立木の譲渡対 土地 + 立木の譲渡
Aが所有する甲土地の上に生立する乙立木について、 AからBへと売却がされた後、 甲土地および乙立木につい て、AからCへと売却がされた。 乙立木の所有権の取得について、BとCとの間の優劣は、Bが乙立木について明認方法を施した時と、 Cが甲土地について所有権移転登記を備えた時または乙立木について明認方法を施した時との先後によって定まる。
(2) 立木所有権の留保
Aが所有する甲土地とその上に生立する乙立木とのうち、 甲土地のみがAからBへと売却され、 乙立木の所有権は、 Aに留保された。 その後、BからCへと甲土地および乙立木が売却された。 この場合において、 Aが乙立木の所有権を留保したことを第三者であるCに対抗するためには、乙立木について明認方法を施さなければならない (最判昭和34・8・7民集13巻10号1223頁)。
立木は本来土地の一部として一個の土地所有権の内容をなすものであるが、土地の所有権を移転するに当り、特に当事者間の合意によつて立木の所有権を留保した場合は、立木は土地と独立して所有権の目的となるものであるが、留保もまた物権変動の一場合と解すべきであるから、この場合には立木につき立木法による登記をするかまたは該留保を公示するに足る明認方法を講じない以上、第三者は全然立木についての所有権留保の事実を知るに由ないものであるから、右登記または明認方法を施さない限り、立木所有権の留保をもつてその地盤である土地の権利を取得した第三者に対抗し得ないものと解するを相当とする。
(昭和34年8月7日 最高裁判所第二小法廷 判決 破棄差戻 仙台高等裁判所)
2 明認方法の存続
Aは、Bに対し、自分が所有する甲土地の上に生立する乙立木を売却した。
Bは、乙立木についていったん明認方法を施したものの、 その明認方法は、雨水により消えてしまった。 その後、 Aは、Cに対しても、乙立木を売却した。
明認方法は、第三者が利害関係を取得した時に存続していなければならない。
(最判昭和36・5・4民集15巻5号1253頁)。
したがって、この場合には、Bは、乙立木の所有権の取得を第三者であるCに対抗することができない。
明認方法は、立木に関する法律の適用を受けない立木の物権変動の公示方法として是認されているものであるから、それは、登記に代るものとして第三者が容易に所有権を認識することができる手段で、しかも、第三者が利害関係を取得する当時にもそれだけの効果をもつて存在するものでなければならず、従つて、たとい権利の変動の際一旦明認方法が行われたとしても問題の生じた当時消失その他の事由で右にいう公示として働きをなさなくなつているとすれば明認方法ありとして当該第三者に対抗できないものといわなければならない旨の原判決の見解は、当裁判所もこれを正当として是認する
(昭和36年5月4日 最高裁判所第一小法廷 判決 破棄差戻 仙台高等裁判所)
(参考)物権法[第3版] NBS (日評ベーシック・シリーズ) 日本評論社
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