民法を学ぼう「時効総説」

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六法全書 司法・法務

時効とは

Aが甲土地を購入し、自宅を建てて居住したとする。その後、22年が経ったある日、隣家のBが、「甲土地のうち丙部分が私の所有であることが分かったので、すぐに返していただきたい。」と言ってきたとする。

このとき、AはBの請求に応じて丙部分を返還すべきなのであろうか。
実は、Aは、すでに22年にわたり、甲土地の占有を継続しているので、例え、丙部分が本当にBの所有であったとしても、時効による所有権の取得を主張できる。(民法162条1項)

(所有権の取得時効)
第百六十二条 二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
(略)
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また、自転車のCが、横断歩道で、歩行者Dとぶつかり、大怪我を負わせてしまったとする。
この事故が、Cの不注意によるものであれば、治療費などの支出を余儀なくされたDはCに対して、損害賠償の請求ができる。(民法709条)

もっとも、Dの請求はいつまでも認められるわけではない。
人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効についての損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から5年間、または、不法行為の時から20年間行使しないときは、この損害賠償請求権は、時効によって消滅する。(民法724条、724条の2)

(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
第七百二十四条 不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。
二 不法行為の時から二十年間行使しないとき。
(人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
第七百二十四条の二 人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第一号の規定の適用については、同号中「三年間」とあるのは、「五年間」とする。
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このように、ある事実状態が一定の期間にわたって継続した場合、これに対応する法律関係を尊重し、権利の取得または消滅という法律効果を認めるのが、「時効制度」である。

初めの事例で、権利の取得を認めるのが、「取得時効」であり、2番目の事例で、権利の消滅を認めるのが、「消滅時効」である。

時効制度の存在理由

  1. 継続した事実関係の尊重
  2. 権利の上に眠る者は保護に値しない
  3. 証拠の散逸による立証困難に対する救済

1 継続した事実に基づいて形成された法律関係が真実の法律関係と一致しないからと言って、これを覆してまで戻すことが常に適切とは限らない。

2 真実の権利者であったとしても、長期間にわたって権利を行使せずに放置した者は、他人の利益保護を優先して、その権利を奪われ、不利益を受けてもやむを得ない。

3 事実を証明するため資料は、時間の経過とともに紛失しやすい。そのため、継続した事実に基づいて形成された法律関係が真実の法律関係と一致しているのを証明することは難しい。

時効制度は、これらを複合的に組み合わせて正当化できると解されている。

時効の完成とその援用

所定の期間に一定の事実が継続すると、権利の取得や消滅の効果が生じるが、「時効の完成」とは、そのようにして定められた時効時間の経過を意味する。

時効の完成前に、権利者が「時効の更新」ができない場合や、著しく困難な事情がある場合は、時効の完成を猶予できる制度があるが、これを「時効の完成猶予」という。

なお、時効が完成して、ただちに、継続した事実が認められるわけではない。当事者は、時効の利益を受ける意思表示を自らしなければならない。これを、「時効の援用」という。

また、時効の利益を受ける者が、これを受けない旨の意思表示をすることもできる。
これを「時効利益の放棄」という。 

参考文献)民法総則「第2版」 原田 昌和 他著 (日本評論社)、C-Book 民法I〈総則〉 改訂新版(東京リーガルマインド)

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