本稿では、民法の各分野のうち、各種資格試験の頻出テーマについて取り上げる。
今回は、「債権各論」から「不当利得(効果)」である。
不当利得が成立すると、その効果として、受益者は、損失者に対して不当利得返還義務を負うことになる。
一般的効果(703条、704条)
(不当利得の返還義務)
第703条 法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。
(悪意の受益者の返還義務等)
第704条 悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。
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返還義務の対象
返還義務の対象となるのは、現物が受益者のもとにあれば、その現物による。(現物返還)
現物返還が不可能である場合は、価格返還による。(金銭による返還)
なお、現物返還が不可能な場合、たとえ代替物が生じたときであっても、代替物の返還でなく、価格返還による。(最判平19.3.8民集第61巻2号479頁)
金銭的評価の基準時は、現物返還が不能になった時である。
なお、受益者が、代替物を第三者に売却処分した場合に返還すべき価格の基準時には争いがある。
判例は、原則として、売却代金相当額の金員の不当利得返還義務を負うべきとする。(最判平19.3.8民集第61巻2号479頁)
返還義務の範囲
受益者は、損失者に対して、損失に対応する受益のすべてを返還するのが原則である。(全部返還義務)
もっとも、損失者の「損失」に限定されるという制限がある。(大判昭11.7.8民集第30巻7号689頁)
ただし、善意の受益者の返還義務の範囲は、現に利益の存する限度に限られる。(703条、利得消滅の抗弁)
なお、受益のときは善意であっても、後に悪意となれば、その時から悪意の受益者として扱われる。(最判平3.11.19民集第45巻8号1209頁)
適用される条文は、原則として、703条であるが、受益者が無償行為に基づき善意で給付を受けた者である場合、121条の2第2項が適用され、受益者が、意思無能力者・制限行為能力者である場合は、121条の2第3項が適用される。
(原状回復の義務)
第121条の2 無効な行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、相手方を原状に復させる義務を負う。
2 前項の規定にかかわらず、無効な無償行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、給付を受けた当時その行為が無効であること(給付を受けた後に前条の規定により初めから無効であったものとみなされた行為にあっては、給付を受けた当時その行為が取り消すことができるものであること)を知らなかったときは、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。
3 第一項の規定にかかわらず、行為の時に意思能力を有しなかった者は、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。行為の時に制限行為能力者であった者についても、同様とする。
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また、利得の現存しなかったことについては、受益者の側が立証責任を負う。(最判平3.11.19民集第45巻8号1209頁)
悪意の受益者は、利益が現存するか否かを問わず、その受けた利益に利息を付して返還しなければならない。(704条前段)
これに加えて、悪意の受益者は、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。(704条後段)
不当利得の類型に応じた返還範囲
不当利得に基づく一般的な返還義務の範囲については、このように703条、704条に一般的な規律を置いている。
もっとも、給付利得の場合や侵害利得の場合など、具体的な返還義務の範囲を検討するにあたっては、一般的な規律をそのまま適用するだけではなく、不当利得の類型ごとに詳細に検討することが必要となる。
これらの論点については、またの機会に取り上げたい。
(参考)C-Book 民法IV〈債権各論〉 改訂新版(東京リーガルマインド)、民法Ⅴ 事務管理・不当利得・不法行為 第2版 (LEGAL QUEST)(有斐閣)
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