民法トピックス「不法行為(使用者責任)」

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民法 司法・法務

本稿では、民法の各分野のうち、各種資格試験の頻出テーマについて取り上げる。

今回は、「債権各論」から「不法行為(使用者責任)」である。

使用者責任

ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。(使用者責任

(使用者等の責任)
第715条 ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
 使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。
 前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。
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要件

  • 使用者と被用者の間に使用関係があること(715条1項本文)
    ・「ある事業」のために他人を使用すること
    判例(最判平16.11.12民集第58巻8号2078頁)は、「事業」が違法であっても、使用者責任を認めている。「階層的に構成されている暴力団の最上位の組長と下部組織の構成員との間に同暴力団の威力を利用しての資金獲得活動に係る事業について民法715条1項所定の使用者と被用者の関係が成立している」と判示した。
    使用関係とは、指揮・監督関係があること。報酬の有無や期間の長短は問わない。
  • 被用者が第三者に加害行為をしたこと(715条1項本文)
  • 被用者による加害行為が「事業の執行について」なされたこと(715条1項本文)
    ・判例(外形標準説
    事業の執行について」なされたかどうかは、
    「その行為の外形から観察してあたかも被用者の職務の範囲内の行為に属するものと見られる場合をも包含するものと解すべきである」(外形標準説最判昭36.6.9民集第15巻6号1546頁)
    取引的不法行為
    「被用者の取引行為がその外形からみて使用者の事業の範囲内に属すると認められる場合であっても、それが被用者の職務権限内において適法に行なわれたものではなく、かつその相手方が右の事情を知り(悪意)、または少なくとも重大な過失によってこれを知らないものであるとき(重過失)は、その相手方である被害者は、民法第715条により使用者に対してその取引行為に基づく損害の賠償を請求することができない。(最判昭42.11.2民集第21巻9号2278頁)
    事実的不法行為
     ・自動車による交通事故
     ・被用者等による暴行等
      被用者が運転する自動車による交通事故の場合と異なり、事業の執行と関連するとはいえない。もっとも、「事業の執行行為を契機とし、これと密接な関連を有すると認められる行為によって加えたものであるから、これを民法715条1項に照らすと、被用者が使用者の事業の執行につき加えた損害に当たるというべきである」という判例もある。(最判昭44.11.18民集第23巻11号2079頁)
      また、前掲の判例(最判平16.11.12民集第58巻8号2078頁)では、「階層的に構成されている暴力団の下部組織における対立抗争においてその構成員がした殺傷行為が民法715条1項にいう「事業ノ執行ニ付キ」した行為に当たる」として、暴力団組長は使用者責任を負う旨判示している。
  • 被用者が不法行為の一般的成立要件を備えていること
  • 使用者に免責事由がないこと(715条1項ただし書)

効果

使用者責任が成立すると、使用者及び使用者に代わって事業を監督する者(代理監督者)が損害賠償責任を負う。(715条1項本文、同2項)
また、使用者本人も709条の責任を負う
→連帯債務
代理監督者とは、「客観的に観察して,実際上現実に使用者に代って事業を監督する地位にある者」をいう。(最判昭35.4.14)

被用者に対する求償(715条3項)

使用者または代理監督者が被害者に損害を賠償した場合は、被用者に求償しうる。

求償権の制限

求償権を行使できるとしても、使用者は常に全額の求償ができるとは解されていない。

損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において」求償権が制限されると解されている。(最判昭51.7.8民集第30巻7号689頁)

注文者の責任

注文者は、請負人がその仕事について第三者に加えた損害を賠償する責任を負わない。

(注文者の責任)
第716条 注文者は、請負人がその仕事について第三者に加えた損害を賠償する責任を負わない。ただし、注文又は指図についてその注文者に過失があったときは、この限りでない。
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ただし、注文又は指図についてその注文者に過失があったときは、注文者は、請負人が第三者に与えた損害を賠償する責任を負う。
→被害者が因果関係の立証責任を負う。

参考)C-Book 民法IV〈債権各論〉 改訂新版(東京リーガルマインド)、民法Ⅴ 事務管理・不当利得・不法行為 第2版 (LEGAL QUEST)(有斐閣)

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