Ⅰ精神神経に作用する薬(1)
1 かぜ薬
1)かぜの諸症状、かぜ薬の働き
「かぜ」(感冒)の症状は、くしゃみ、鼻汁・鼻閉(鼻づまり)、咽喉痛、咳、痰等の呼吸器症状と、発熱、頭痛、関節痛、全身倦怠感等、様々な全身症状が組み合わさって現れる。「かぜ」は単一の疾患ではなく、医学的にはかぜ症候群といい、主にウイルスが鼻や喉などに感染して起こる上気道の急性炎症の総称で、通常は数日~1週間程度で自然寛解し、予後は良好である。
かぜの約8割はウイルス(ライノウイルス,コロナウイルス,アデノウイルスなど)の感染が原因であるが、それ以外に細菌の感染や、まれに冷気や乾燥、アレルギーのような非感染性の要因による場合もある。原因となるウイルスは、200種類を超えるといわれており、それぞれ活動に適した環境があるため、季節や時期などによって原因となるウイルスや細菌の種類は異なる。
かぜとよく似た症状が現れる疾患に、喘息、アレルギー性鼻炎、リウマチ熱、関節リウマチ、肺炎、肺結核、髄膜炎、急性肝炎、尿路感染症等多数がある。急激な発熱を伴う場合や、症状が4日以上続くとき、又は症状が重篤なときは、かぜではない可能性が高い。発熱や頭痛を伴って悪心・嘔吐や、下痢等の消化器症状が現れることもあり、俗に「お腹にくるかぜ」などと呼ばれるが、冬場にこれらの症状が現れた場合はかぜではなく、ウイルスが消化器に感染したことによるウイルス性胃腸炎である場合が多い。
インフルエンザ(流行性感冒)は、かぜと同様、ウイルスの呼吸器感染によるものであるが、感染力が強く、また、重症化しやすいため、かぜとは区別して扱われる。
かぜ薬とは、かぜの諸症状の緩和を目的として使用される医薬品の総称であり、総合感冒薬とも呼ばれる。かぜは、生体に備わっている免疫機構によってウイルスが消滅すれば自然に治癒する。したがって、安静にして休養し、栄養・水分を十分に摂ることが基本である。かぜ薬は、ウイルスの増殖を抑えたり、ウイルスを体内から除去するものではなく、咳で眠れなかったり、発熱で体力を消耗しそうなときなどに、それら諸症状の緩和を図る対症療法薬である。
なお、かぜであるからといって必ずしもかぜ薬(総合感冒薬)を選択するのが最適とは限らない。発熱、咳、鼻水など症状がはっきりしている場合には、症状を効果的に緩和させるため、解熱鎮痛薬、鎮咳去痰薬、鼻炎を緩和させる薬などを選択することが望ましい。存在しない症状に対する不要な成分が配合されていると、無意味に副作用のリスクを高めることとなる。
2)主な配合成分等
発熱を鎮め、痛みを和らげる成分(解熱鎮痛成分)
かぜ薬に配合される主な解熱鎮痛成分としては、アスピリン、サリチルアミド、エテンザミド、アセトアミノフェン、イブプロフェン、イソプロピルアンチピリン等がある。解熱作用がある生薬成分としてジリュウが配合されている場合もある。また、ショウキョウ、ケイヒ等が、他の解熱鎮痛成分と組み合わせて配合されている場合もある。
このほか、解熱作用を期待してゴオウ、カッコン、サイコ、ボウフウ、ショウマ等、鎮痛作用を期待してセンキュウ、コウブシ等の生薬成分が配合されている場合もある。
なお、サリチルアミド、エテンザミドについては、15歳未満の小児で水痘(水疱瘡)又はインフルエンザにかかっているときは使用を避ける必要があるが、一般の生活者にとっては、かぜとインフルエンザとの識別は必ずしも容易でない。医薬品の販売等に従事する専門家においては、インフルエンザ流行期等、必要に応じて購入者等に対して積極的に注意を促したり、解熱鎮痛成分がアセトアミノフェンや生薬成分のみからなる製品の選択を提案したりする等の対応を図ることが重要である。
くしゃみや鼻汁を抑える成分(抗ヒスタミン成分、抗コリン成分)
かぜ薬に配合される主な抗ヒスタミン成分に、クロルフェニラミンマレイン酸塩、カルビノキサミンマレイン酸塩、メキタジン、クレマスチンフマル酸塩、ジフェンヒドラミン塩酸塩等がある。また、抗コリン作用によって鼻汁分泌やくしゃみを抑えることを目的としてベラドンナ総アルカロイドやヨウ化イソプロパミドが配合されている場合もある。
鼻粘膜の充血を和らげ、気管・気管支を拡げる成分(アドレナリン作動成分)
かぜ薬に配合される主なアドレナリン作動成分に、メチルエフェドリン塩酸塩、メチルエフェドリンサッカリン塩、プソイドエフェドリン塩酸塩等がある。これらと同様の作用を示す生薬成分として、マオウが配合されている場合もある。いずれの成分も依存性があることに留意する必要がある。
咳を抑える成分(鎮咳成分)
かぜ薬に配合される主な鎮咳成分に、コデインリン酸塩水和物、ジヒドロコデインリン酸塩、デキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物、ノスカピン、チペピジンヒベンズ酸塩、クロペラスチン塩酸塩等がある。鎮咳作用を目的として、ナンテンジツ等の生薬成分が配合されている場合もある。
なお、これらのうちコデインリン酸塩水和物及びジヒドロコデインリン酸塩は、依存性がある成分であることに留意する必要がある。また、これらの咳止め成分は12才未満の小児には使用禁忌となっている。
痰の切れを良くする成分(去痰成分)
かぜ薬に配合される主な去痰成分に、グアイフェネシン、グアヤコールスルホン酸カリウム、ブロムヘキシン塩酸塩、エチルシステイン塩酸塩等がある。去痰作用を目的として、シャゼンソウ、セネガ、キキョウ、セキサン、オウヒ等の生薬成分が配合されている場合もある。
炎症による腫れを和らげる成分(抗炎症成分)
鼻粘膜や喉の炎症による腫れを和らげることを目的として、トラネキサム酸、グリチルリチン酸二カリウム等が配合されている場合がある。
① トラネキサム酸
体内での起炎物質の産生を抑制することで炎症の発生を抑え、腫れを和らげる。ただし、凝固した血液を溶解されにくくする働きもあるため、血栓のある人(脳血栓、心筋梗塞、血栓性静脈炎等)や血栓を起こすおそれのある人に使用する場合は、治療を行っている医師又は処方薬の調剤を行った薬剤師に相談するなどの対応が必要である。
② グリチルリチン酸二カリウム
グリチルリチン酸二カリウムの作用本体であるグリチルリチン酸は、化学構造がステロイド性抗炎症成分に類似していることから、抗炎症作用を示すと考えられている。
グリチルリチン酸を大量に摂取すると、偽アルドステロン症を生じるおそれがある。むくみ、心臓病、腎臓病又は高血圧のある人や高齢者では偽アルドステロン症を生じるリスクが高いため、それらの人に1日最大服用量がグリチルリチン酸として 40mg 以上の製品を使用する場合は、治療を行っている医師又は処方薬の調剤を行った薬剤師に相談する等、事前にその適否を十分考慮するとともに、偽アルドステロン症の初期症状に常に留意する等、慎重に使用する必要がある。
また、どのような人が対象であっても、 1日最大服用量がグリチルリチン酸として 40mg 以上となる製品は長期連用を避ける。なお、医薬品ではグリチルリチン酸としての1日摂取量が 200mg を超えないよう用量が定められているが、かぜ薬以外の医薬品にも配合されていることが少なくなく、また、グリチルリチン酸二カリウムは甘味料として一般食品や医薬部外品などにも広く用いられているため、医薬品の販売等に従事する専門家においては、購入者等に対して、グリチルリチン酸の総摂取量が継続して過剰にならないよう注意を促す必要がある。
(参考)
・登録販売者試験問題作成に関する手引き(令和7年4月)
・ズルい!合格法シリーズ ズルい!合格法 医薬品登録販売者試験対策 鷹の爪団直伝!参考書 Z超 株式会社医学アカデミーYTL(著)薬ゼミ情報教育センター
コメント