民法を学ぼう!「不動産物権変動の対抗要件(2)取消しと登記」

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不動産取引 司法・法務

今回のテーマは、「取消しと登記」である。

「取消しと登記」

AがBに売買契約に基づいて甲土地を譲渡し、Bに登記も移転した。しかし、その契約の締結にあたってBは、実際には1億円の価値のある甲について、5,000万円で売れれば高いほどであるとAを欺罔し、不当に安価で買い取ったとする。この場合、Aは詐欺を理由としてその売買契約を取り消すことができるが(民法96条1項)、Aの取消しと前後してBが第三者Cに甲を転売していたとする。AはCに甲の返還を請求できるか。

判例

「取消しと登記」と称されるこの問題につき、判例は、CがAの取消しの前に現れたのか後に現れたのかによって、処理の仕方を変えている。

取消し前の第三者

96条3項
CがAの取消しの前に現れた場合、96条3項により、Cが善意無過失である場合に限り、Cを保護する。
96条3項の趣旨は、すでに利害関係を有しているCを取消しの遡及効(112条)から保護することにあると解する。

(詐欺又は強迫)
第96条 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。
民法・e-Gov法令検索)

登記の必要性
この場合、善意無過失に加えて登記が要求されるかについては争いがある。

判例は、96条3項の文言通り、善意無過失で足り、登記を要しないと解している。(最判昭和49.9.26民集28巻6号1213頁)

詐欺以外に基づく取消し
取消し原因が強迫であった場合、善意無過失のCといえども原則として保護されない。
また、Aが制限行為能力者であることを理由に取消しがなされた場合にもCは保護されない。

取消し後の第三者

CがAの取消しのに現れた場合、判例は、Bを起点としたAとCへの二重譲渡類似の関係があったものとして、177条を適用し、AC間の優劣を登記によって決するとする。(大判昭和17.9.30民集21巻911頁)

この場合、96条3項を用いることはできない。これは取消しの遡及効から第三者を保護する規定であって、取消し時にCは存在していなければならないからである。

学説
94条2項類推適用説
取消し後の第三者との関係でも取消しの遡及効を貫徹し、相手方名義の登記を信頼した第三者を保護するため、94条2項を類推適用すべきだとする見解。
→第三者は善意であれば足り、対抗要件を備える必要はない。

(虚偽表示)
第94条 相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。
 前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。
民法・e-Gov法令検索)

参考)物権法[第3版] NBS (日評ベーシック・シリーズ) 日本評論社

物権法[第3版]

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