民法を学ぼう!「動産物権変動(6) 第三者の範囲(1)」

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民法 司法・法務

第三者の範囲(1)

動産物権譲渡は、引渡しがなければ、 「第三者」に対抗することができない(178条)。
ここでの「第三者」の意義は、一般に、不動産物権変動と同じように解されている。
すなわち、 同条の 「第三者」 とは、 当事者およびその包括承継人以外の者であって、 引渡しがされていないことを主張するについて正当な利益を有する者である。

(動産に関する物権の譲渡の対抗要件)
第178条 動産に関する物権の譲渡は、その動産の引渡しがなければ、第三者に対抗することができない。
(民法・e-Gov法令検索)

(1) 客観的範囲

動産物権譲渡では、客観的範囲について、 次のような問題が争われている。
Aは、Bから、Bが所有する時計(甲)を賃借して、その引渡しを受けた。 その後、Bは、Cに対し、 甲を売却した。 指図による占有移転はされていない。Cは、Aに対し、所有権に基づいて甲の返還を求めることができるか。
また、 Aは、Bから、 Bが所有する絵画 (乙) の保管を委ねられていたその後、Bは、Cに対し、 乙を売却した。 指図による占有移転は、されていない。 Cは、Aに対し、所有権に基づいて乙の返還を求めることができるか。動産賃借人や動産受寄者が、 178条の 「第三者」 に当たるかどうかが問題となる。

(a) 判例

判例によれば、動産賃借人は、 「動産の占有者として民法第178条に所謂第三者に該当」 する (大判大正4.2. 2民録21輯61頁)。 これに対し、 動産受寄者は、178条の 「第三者」 に当たらない (最判昭和29.8.31民集8巻8号1567頁)。
「AはCに本件物件を譲渡したBに代って一時右物件を保管するに過ぎない」からである。
つまり、 判例によれば、動産賃借人と動産受寄者とで、同条の「第三者」に当たるどうかが区別されている。

(b)学説

学説は、次のように分かれている。

第1に、 動産の返還の相手方を確実に知る利益を有する者も、 178条の「第三者」に当たるという見解がある。 動産賃借人および動産受寄者は、契約の相手方である賃貸人・寄託者に動産を返還すべきか、 譲受人に動産を返還すべきかを確実に知る利益を有する。
したがって、この見解によれば、 動産賃借人と 動産受寄者とのいずれも、同条の 「第三者」に当たることとなる。ここで譲受人に求められる引渡しの性格については、 対抗要件とみるものと、権利保護資格要件とみるものとがある 。

第2に、178条の 「第三者」 は、物的支配を相争う関係にある者に限られるとする見解がある。 動産賃借人および動産受寄者は、いずれも債権者である。

そして、動産賃貸借と動産寄託については、不動産賃貸借(605条、借地借家法10 条・31条等)とは異なり、 債権を物権化する特別な規律が定められていない。 そのため、「売買は賃貸借(寄託)を破る」 の原則が適用される。
したがって、動産賃借人および動産受寄者は、譲受人との間で、物的支配を相争う関係にない。
この見解によれば、動産賃借人と動産受寄者とのいずれも、同条の「第三者」に当たらないこととなる。

(不動産賃貸借の対抗力)
第605条 不動産の賃貸借は、これを登記したときは、その不動産について物権を取得した者その他の第三者に対抗することができる。
(民法・e-Gov法令検索)

(借地権の対抗力)
第10条 借地権は、その登記がなくても、土地の上に借地権者が登記されている建物を所有するときは、これをもって第三者に対抗することができる。
2 前項の場合において、建物の滅失があっても、借地権者が、その建物を特定するために必要な事項、その滅失があった日及び建物を新たに築造する旨を土地の上の見やすい場所に掲示するときは、借地権は、なお同項の効力を有する。ただし、建物の滅失があった日から二年を経過した後にあっては、その前に建物を新たに築造し、かつ、その建物につき登記した場合に限る。

(建物賃貸借の対抗力)
第31条 建物の賃貸借は、その登記がなくても、建物の引渡しがあったときは、その後その建物について物権を取得した者に対し、その効力を生ずる。

(借地借家法・e-Gov法令検索)

第3に、 占有継続の利益を有する者は、 178条の 「第三者」に当たるとする見解がある。 動産賃貸借では、賃借人が譲受人に対し、 対抗不能を主張することができるとすると、 賃貸借契約が終了するまで、 動産の占有を継続することができる。これに対し、 動産寄託では、受寄者が譲受人に対し、 対抗不能を主 張することができたとしても、譲渡人から動産の返還を求められたときは、これに応じなければならない(662条)。 したがって、この見解によれば、判例と同じように、動産賃借人は、同条の 「第三者」に当たるのに対し、 動産受寄者は、同条の 「第三者」 に当たらないこととなる。

(寄託者による返還請求等)
第662条 当事者が寄託物の返還の時期を定めたときであっても、寄託者は、いつでもその返還を請求することができる。
2 前項に規定する場合において、受寄者は、寄託者がその時期の前に返還を請求したことによって損害を受けたときは、寄託者に対し、その賠償を請求することができる。
(民法・e-Gov法令検索)

2017年の民法改正では、寄託について新たな規律を定めることとした。 それによれば、受寄者は、第三者が目的物について権利を主張する場合であっても、寄託者の指図等がない限り、 寄託者に目的物を返還しなければならない (660条2項)。
この場合において、受寄者は、寄託者への目的物の引渡しによって第三者に損害が生じたとしても、その損害を賠償する責任を負わない(同条3項)。
このルールは、受寄者が目的物の返還の相手方を確実に知る利益を保護する目的で、 それに相応しい要件と効果とを定めたものである。
したがって、これと同一の利益を保護する観点から、 動産受寄者は、178条の「第三者」に当たると解すること(第1の見解を参照) は、 必要でも相当でもなくなったものと考えられる

(受寄者の通知義務等)
第660条 寄託物について権利を主張する第三者が受寄者に対して訴えを提起し、又は差押え、仮差押え若しくは仮処分をしたときは、受寄者は、遅滞なくその事実を寄託者に通知しなければならない。ただし、寄託者が既にこれを知っているときは、この限りでない。
2 第三者が寄託物について権利を主張する場合であっても、受寄者は、寄託者の指図がない限り、寄託者に対しその寄託物を返還しなければならない。ただし、受寄者が前項の通知をした場合又は同項ただし書の規定によりその通知を要しない場合において、その寄託物をその第三者に引き渡すべき旨を命ずる確定判決(確定判決と同一の効力を有するものを含む。)があったときであって、その第三者にその寄託物を引き渡したときは、この限りでない。
3 受寄者は、前項の規定により寄託者に対して寄託物を返還しなければならない場合には、寄託者にその寄託物を引き渡したことによって第三者に損害が生じたときであっても、その賠償の責任を負わない。
(民法・e-Gov法令検索)

参考)物権法[第3版] NBS (日評ベーシック・シリーズ) 日本評論社

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