第三者の範囲(2)
(2)主観的範囲
Aは、Bに対し、 自分が所有する古本(甲) を売却した。 甲の引渡しは、されていない。
その後、Aは、Cに対しても、 甲を売却した。 甲は、Cが自分の家に持ち帰っている。
Cは、甲の所有権がAからBへと移転したことを知っていた。
Bは、 Cに対し、 所有権に基づいて甲の返還を求めることができるか。
悪意の動産譲受人も、 178条の 「第三者」 に当たるかどうかが問題となる。
(a) 背信的悪意者排除論
不動産物権変動の対抗要件については、一般に、背信的悪意者排除論がとられている。この考え方が動産物権譲渡の対抗要件についても当てはまるとみるならば、Cは、悪意者であっても、背信的悪意者でない限り、178条の 「第三者」に当たることとなろう。
(b) 悪意者善意有過失者排除説
これに対し、 動産物権譲渡の対抗要件については、 Cは、 善意無過失でなければ、 178条の 「第三者」に当たらないとするものがある。
上記の事例では、AがBに対し、占有改定による引渡しをしていないことを前提としている。
他方、AがBに対し、占有改定による引渡しをしていたときは、Bは、甲の所有権を取得したことについて、対抗要件を備えていることとなる。
この場合には、 Cは、 無権利者であるAからの取得者である。 Cは、善意無過失であるときに限り、 即時取得制度(192条)によって所有権を取得する余地があるにとどまる 。 AがBに対し、占有改定による引渡しをしていたかどうかは、AとBとの間で、占有改定についての合意が成立していたかどうかという微妙な判断にかからしめられる。
そうであるとすると、たまたま占有改定についての合意が成立していなかったとされたときに、 悪意であるCが、所有権に基づく返還請求を拒むことができるとするのは、バランスが悪い。 このように考えるならば、 動産物権譲渡については、悪意者および善意有過失者は、 178条の 「第三者」 から除かれるものと解することとなる。
(参考)物権法[第3版] NBS (日評ベーシック・シリーズ) 日本評論社
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