民法を学ぼう!「 占有権(2)占有の訴え(1)」

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司法・法務

占有の訴え

所有権などの物権が侵害されているとき、または、侵害のおそれがあるとき、物権を有する者は物権的請求権を行使できる。

占有をしている者にも、占有物に対する完全な支配を維持回復することが認められている。 これを占有の訴えといい(197条)、この訴えを提起するための実体法上の権利を占有保護請求権という。

(占有の訴え)
第197条 占有者は、次条から第二百二条までの規定に従い、占有の訴えを提起することができる。他人のために占有をする者も、同様とする。
民法(e-Gov法令検索)

制度趣旨

なぜ占有をするだけで、 法的保護が与えられるのだろうか。この問題に対しては、以下のようにいくつかの答えが提示されてきた。しかし、いずれか1つからの説明は困難であり、複合的に説明をする必要がある。

立証困難の回避

第1の答えは、所有権など実体法上の適法な権利の証明をしやすくするためというものである。所有権を有していることの証明は困難をともなうことが多い。そのため「悪魔の証明」などといわれる。

Aが甲土地をCから買い受け、所有権移転登記を行ったところ、Bが「私の土地だ」と主張してきて争いになった。このとき、Aは甲に対する所有権の存在をどのように証明すればよいか。 まず、AC間の売買契約書、登記などは、強力な証拠となる。しかし、Cが、本当に甲の所有権を有していたという必要がある。これを証明するためには、甲を原始取得した者からの所有権をすべて証明しなければならない。所有権の証明は容易ではない。
そのため、占有の訴えを認める必要があるとされる。

しかし、占有 (188条) ないし登記に本権推定力があることから、占有の訴えを認める必要性は少ないとの批判がなされている。これに対して、所有物を奪われ所有権の証明が困難をともなう場合には、占有の訴えを認めることが必要であるとの再反論がある。

(占有物について行使する権利の適法の推定)
第188条 占有者が占有物について行使する権利は、適法に有するものと推定する。
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債権的利用権者の保護

第2の答えは、賃借人などの債権的な利用権者を保護するため、というものである。

Aの所有する絵画をBが賃借し利用していたところ、Cに盗まれたとしよう。賃借人Bは賃貸人Aに対する債権(賃借権)を有している。債権は債務者に対して主張できる権利であり、基本的に第三者に対して主張できない。つまり、BはCに対して債権を主張できず、絵画の返還を主張できない。そこで、Bのような債権的な利用権者に、占有の訴えを認める必要があると考えられる。

しかし、賃借権に基づく妨害排除・ 返還請求権 (不動産については605条の4)、 また、債権者代位権(423条)の行使による救済が可能であるため、この考え方は占有の訴えを認める根拠として不十分であると批判される。 これに対して、対抗力がない賃借権のように、第三者に対して妨害排除・ 返還請求権を行使できない場合に意義があるとの再反論がある。

(不動産の賃借人による妨害の停止の請求等)
第605条の4 不動産の賃借人は、第六百五条の二第一項に規定する対抗要件を備えた場合において、次の各号に掲げるときは、それぞれ当該各号に定める請求をすることができる。
一 その不動産の占有を第三者が妨害しているとき その第三者に対する妨害の停止の請求
二 その不動産を第三者が占有しているとき その第三者に対する返還の請求
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(債権者代位権の要件)
第423条 債権者は、自己の債権を保全するため必要があるときは、債務者に属する権利(以下「被代位権利」という。)を行使することができる。ただし、債務者の一身に専属する権利及び差押えを禁じられた権利は、この限りでない。
2 債権者は、その債権の期限が到来しない間は、被代位権利を行使することができない。ただし、保存行為は、この限りでない。
3 債権者は、その債権が強制執行により実現することのできないものであるときは、被代位権利を行使することができない。
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社会秩序の維持

第3の答えは、物に対する事実上の支配をとりあえず適法なものとして尊重し、それによって社会秩序を維持するため、というものである。

Aの所有する機械をBが盗んだ場合、Bに占有の訴えを認めれば、Aが実力でBから機械を取り戻すことを禁止できる。私人の実力行使である自力救済を禁止するために、占有の訴えを認めることが必要であると考えられる。しかし、判例上、AがBから実力で機械を奪い返したときに、BがAに占有の訴えを提起しても、AのBに対する所有権に基づく反訴が認められ、Bに機械が返還されることはない。 結局のところ、自力救済の禁止の機能は十分に果たされていないと批判されている。そこで、AのBに対する反訴を認めないとすることによって、自力救済禁止の機能を果たそうとする見解もある。

参考)物権法[第3版] NBS (日評ベーシック・シリーズ) 日本評論社

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