本稿は、「管理業務主任者試験」の出題範囲のうち、民法の頻出論点をまとめたものである。
抵当権
抵当権とは
抵当権とは、債務者または第三者が、目的物を占有したまま、目的物の価値だけを債務の担保(保証)に供する仕組みである。(非占有担保)
抵当権を設定した後も、抵当権設定者(債務者または第三者※)が引き続き目的物の使用・収益・処分を自由に行うことができる。
※他人の債務のために自己の所有する財産を担保に供して抵当権等を設定する第三者を物上保証人という
万一、債務が弁済されない場合は、債権者は、抵当権を設定した不動産等について裁判所に競売の申し立てを行う。(抵当権の実行)
競売された不動産等の売却代金から、優先して弁済を受けることができる。(優先弁済的効力)
(抵当権の内容)
第369条 抵当権者は、債務者又は第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した不動産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。
2 地上権及び永小作権も、抵当権の目的とすることができる。この場合においては、この章の規定を準用する。
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抵当権設定契約と目的物
抵当権設定契約は、抵当権者と抵当権設定者の合意のみで成立する。
ただし、登記をしなければ、その後に賃借権を取得した者や目的物を譲り受けた者(第三取得者)に対抗できない。
抵当権の性質(担保物権の通有性)
- 付従性・・・被担保債権が弁済などにより消滅すると、抵当権も消滅する
- 随伴性・・・被担保債権が譲渡されると抵当権も譲受人に移転する
- 不可分性・・・債権者は、債権の全部の弁済を受けるまで、目的物の全部を競売にかけて債権を回収することができる
- 物上代位性・・・目的物が他の財産権に変わったとしても、その財産権に抵当権の効力が及ぶ
なお、抵当権は、債務者及び抵当権設定者に対しては、その被担保債権と同時でなければ、時効によって消滅しない。
抵当権の効力が及ぶ目的物の範囲
建物と土地
抵当権の効力は土地や建物に及ぶ。
ただし、土地と建物は別々の不動産なので、建物のみに設定した抵当権の効力は土地に及ばず、土地のみに設定した抵当権の効力は建物には及ばない。
附加一体物
抵当権の効力は、抵当不動産に付加して一体となっている物(附加一体物)に及ぶ。(民法370条本文)
(抵当権の効力の及ぶ範囲)
第370条 抵当権は、抵当地の上に存する建物を除き、その目的である不動産(以下「抵当不動産」という。)に付加して一体となっている物に及ぶ。
(略)
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付合物(242条本文)
付合物とは、不動産の構成部分となって、独立性を失っている物をいい、付加された時期にかかわらず抵当権の効力が及ぶ。
(不動産の付合)
第242条 不動産の所有者は、その不動産に従として付合した物の所有権を取得する。
(略)
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従物
抵当権の効力は、抵当権設定時に存在した不動産の従物についても及ぶ。
従たる権利
借地上の建物に抵当権を設定した場合における借地権等の従たる権利にも及ぶ。(判例)
果実
果実とは、物から生ずる経済的な収益のこと。天然果実と法定果実がある。
抵当権は、被担保債権の債務不履行後に生じた抵当不動産の果実に及ぶ。
被担保債権の範囲
抵当権者は、利息その他の定期金を請求する権利を有するときは、その満期となった最後の2年分についてのみ、その抵当権を行使することができる。(375条1項本文)
法定地上権
法定地上権とは、土地及び建物が同一の所有者に属する場合、土地と建物の一方または双方に抵当権を設定したとき、抵当権実行による競売時において、法律上当然に地上権を発生させる制度である。
抵当権と賃借権
抵当権設定登記前の賃借人
不動産の賃貸借は、これを登記したときは、その不動産について物権を取得した者その他の第三者に対抗することができる。(605条)
抵当権設定登記後の賃借人
たとえ対抗要件を備えていても、原則として、抵当権者や買受人に対抗できない。
ただし、登記をした賃貸借は、その登記前に登記をした抵当権を有するすべての者が同意をし、かつ、その同意の登記があるときは、その同意をした抵当権者に対抗することができる。(387条1項本文)
建物明渡猶予期間制度
抵当権者に対抗することができない賃貸借により抵当権の目的である建物の使用又は収益をする者であって、競売手続の開始前から使用又は収益をする者等は、その建物の競売における買受人の買受けの時から6か月を経過するまでは、その建物を買受人に引き渡すことを要しない。(395条1項)
→土地の賃貸借には適用されない。
(参考)
らくらくわかる! マンション管理士 速習テキスト 2023年度(TAC出版)
C-Book 民法Ⅱ〈物権〉 改訂新版(東京リーガルマインド)
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