本稿では、民法の各分野のうち、各種資格試験の頻出テーマについて取り上げる。
今回は、「物権」から「即時取得」である。
即時取得
(即時取得)
第192条 取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。
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即時取得の要件
目的物が動産であること
即時取得は、占有の公示機能不全を補完することを目的とする。特別法において登記・登録による公示方法が具備されている動産(船舶、自動車、航空機、建設機械等)には適用されない。
また、金銭は、占有があれば所有権を取得するため、適用されない。
前主が無権利者であること
第三者が前主の無権利を主張・立証する必要はない。
無権利者との間に有効な取引行為が存在すること
第三者が、取引行為によって動産の上に権利関係を築いたことが求められる。
したがって、他人の所有する樹木を自己所有のものと誤信してこれを伐採・搬出した場合(大判昭7・5・18民集11巻1963頁)や、相続によって相続財産中にある他人の動産を包括承継した場合には即時取得は成立しない。
なお、192条による保護は、取引行為が有効であることを前提としている。
占有の取得時に平穏・公然・善意・無過失であること
占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定する。(186条)さらに、占有者が占有物について行使する権利は、適法に有するものと推定される(188条)ので、前主の占有に対する第三者の信頼について間接的に無過失が推定される。(最判昭和41・6・9民集20巻5号1011頁)
したがって、即時取得の成立を否定する当事者の側に第三者の悪意または有過失に関する立証責任がある。
占有を開始すること
占有改定と即時取得
判例は、即時取得が成立するためには、「一般外観上従来の占有状態に変更が生ずるがごとき占有を取得することを要し、かかる状態に一般外観上変更を来たさないいわゆる占有改定の方法による取得をもっては足らないものといわなければならない」として否定説に立つ。(最判昭和35・2・11民集14巻2号168頁)通説も支持している。
指図による占有移転と即時取得
指図による引き渡しの結果、原権利者の占有が失われている場合は、即時取得を肯定し、原権利者の占有(間接占有を含む)が失われていない場合は即時取得を否定する。
効果
192条が適用されることによって、動産の占有者は「即時にその動産について行使する権利を取得する。」
即時取得による保護の対象となる権利は、所有権、質権、動産先取特権の一部(不動産賃貸先取特権(312条)など)(319条)である。
盗品及び遺失物の例外
192条によって、取引の安全が確保される一方で、真の権利者の権利を奪う以上、真の権利者の静的安全への配慮も必要である。
(盗品又は遺失物の回復)
第193条 前条の場合において、占有物が盗品又は遺失物であるときは、被害者又は遺失者は、盗難又は遺失の時から2年間、占有者に対してその物の回復を請求することができる。
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193条によって、物の回復が認められると、占有者が物の取得のために対価を支払っていた場合、その権利が害されることになる。そこで、回復者の利益と占有者の利益および取引安全保護の調整を図るために194条が設けられている。
第194条 占有者が、盗品又は遺失物を、競売若しくは公の市場において、又はその物と同種の物を販売する商人から、善意で買い受けたときは、被害者又は遺失者は、占有者が支払った代価を弁償しなければ、その物を回復することができない。
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(参考)C-Book 民法II〈物権〉 改訂新版(東京リーガルマインド)、民法II 物権〔第4版〕 (LEGAL QUEST) (有斐閣)、民法の基礎2 物権〔第3版〕佐久間 毅 (著)(有斐閣)
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