民法トピックス「詐害行為取消権」

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司法・法務

本稿では、民法の各分野のうち、各種資格試験の頻出テーマについて取り上げる。

今回は、「債権総論」から「詐害行為取消権」である。

詐害行為取消権

債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした行為の取消しを裁判所に請求できることができ、(424条1項本文)この権利を「詐害行為取消権」という。

(詐害行為取消請求)
第424条 債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その行為によって利益を受けた者(以下この款において「受益者」という。)がその行為の時において債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。
 前項の規定は、財産権を目的としない行為については、適用しない。
 債権者は、その債権が第一項に規定する行為の前の原因に基づいて生じたものである場合に限り、同項の規定による請求(以下「詐害行為取消請求」という。)をすることができる。
 債権者は、その債権が強制執行により実現することのできないものであるときは、詐害行為取消請求をすることができない。
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詐害行為取消権の要件

  1. 被保全債権が金銭債権であること
  2. 被保全債権が詐害行為の前の原因に基づいて生じたものであること(424条3項)
    もっとも、被保全債権の履行期が到来している必要はない。(大判大9.12.27)
  3. 被保全債権が強制執行により実現できるものであること(424条4項)
  4. 保全の必要性があること(債務者の無資力)
    債務者の無資力は、詐害行為時と取消権行使時(事実審口頭弁論終結時)の双方の時点で必要(大判大15.11.13)
  5. 財産権を目的とした法律行為であること(424条2項)
    ・離婚に伴う財産分与は、特段の事情があるときは、不相当に過大な部分について、その限度において詐害行為として取り消される。(最判平12.3.9)
    ・相続放棄は詐害行為取消権の対象とならない。(最判昭49.9.20)
    ・遺産分割協議は詐害行為取消権の対象となり得る。(最判平11.6.11)
  6. 「債務者が債権者を害することを知ってした行為」であること(424条1項本文)
    客観的要件(詐害行為)と主観的要件(詐害意思)を相関的に判断して行われる。
  7. 受益者・転得者の悪意(424条1項ただし書、424の5柱書、424条の5①②)

行使方法

債権者は、債務者の詐害行為の取消しを「裁判所に請求」して行う。(424条1項本文)

期間制限

第426条 詐害行為取消請求に係る訴えは、債務者が債権者を害することを知って行為をしたことを債権者が知った時から2年を経過したときは、提起することができない。行為の時から10年を経過したときも、同様とする。
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これらは、「出訴期間」であり、「時効期間」ではない。

詐害行為取消権の効果

認容判決の効力が及ぶ者の範囲

(認容判決の効力が及ぶ者の範囲)
第425条 詐害行為取消請求を認容する確定判決は、債務者及びその全ての債権者に対してもその効力を有する。
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  1. 取消債権者
  2. 被告となった受益者・転得者
  3. 債務者(425条)
  4. 債務者の全ての債権者(425条)

取り消すことができる範囲

(詐害行為の取消しの範囲)
第424の8 債権者は、詐害行為取消請求をする場合において、債務者がした行為の目的が可分であるときは、自己の債権の額の限度においてのみ、その行為の取消しを請求することができる。
(略)
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目的物が可分である場合

債権者は、詐害行為取消請求をする場合において、債務者がした行為の目的が可分であるときは、自己の債権の額の限度においてのみ、その行為の取消しを請求することができる。(一部取消し、424条の8第1項)

目的物が不可分である場合

424条の8第1項の反対解釈から、債務者がした行為の目的物が不可分である場合(不動産を贈与した場合など)、債権者は、自己の債権額にかからわらず、当該行為の全部を詐害行為として、取り消すことができる。(最判昭30.10.11)

取消後の返還等の相手方

不動産の場合

不動産の場合には、一般論のとおり、その登記が債務者の下に戻る。(不動産の占有が戻されるわけではない。)
取消債権者は、不動産については、直接自己への引き渡しや所有権移転登記を請求することができない。(424条の9の反対解釈、最判昭53.10.5)

金銭・動産の場合

(債権者への支払又は引渡し)
第424条の9 債権者は、第424条の6第1項前段又は第2項前段の規定により受益者又は転得者に対して財産の返還を請求する場合において、その返還の請求が金銭の支払又は動産の引渡しを求めるものであるときは、受益者に対してその支払又は引渡しを、転得者に対してその引渡しを、自己に対してすることを求めることができる。この場合において、受益者又は転得者は、債権者に対してその支払又は引渡しをしたときは、債務者に対してその支払又は引渡しをすることを要しない。
(略)
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債権者が、受益者・転得者に対して財産の返還を請求する場合(424条の6第1項前段、同第2項前段)において、その返還の請求が金銭の支払又は動産の引渡しを求めるものであるときは、債権者は、受益者に対して金銭の支払又は動産の引渡しを、転得者に対して動産の引渡しを、直接自己に対してすることを求めることができる。直接取立権

なお、受益者又は転得者が、債権者に対してその支払又は引渡しをしたときは、債務者に対してその支払又は引渡しをすることを要しない。

そして、受益者・転得者から直接金銭の支払いを受けた債権者は、債務者に対してこの金銭の返還義務を負うところ、これと債務者に対する被保全債権を相殺(505条1項本文)することによって、被保全債権につき事実上の優先弁済を受けることができる。

参考)C-Book 民法Ⅲ〈債権総論〉 改訂新版(東京リーガルマインド)、民法III 債権総論 (LEGAL QUEST) (有斐閣)

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