本稿は、「ファイナンシャル・プランニング技能検定(FP検定)」の1~3級(学科試験)で出題される頻出論点をまとめたものである。
今回のテーマは、「E 不動産」から「譲渡所得」である。
譲渡所得
個人が、土地・建物などを譲渡した場合、譲渡所得となり、所得税等が課税される。
譲渡所得は通常は総合課税の対象であるが、不動産の譲渡所得は他の所得と区分して税が計算される分離課税(申告分離課税)である。
短期譲渡所得と長期譲渡所得
短期譲渡所得と長期譲渡所得の区分
総合課税となる場合(一般の資産)※ | 所有期間が5年以下 | 短期譲渡所得 | |
所有期間が5年超 | 長期譲渡所得 | ||
申告分離課税となる場合 | 土地・建物の場合 | 譲渡した年の1月1日において、保有期間が5年以下 | 短期譲渡所得 |
譲渡した年の1月1日において、保有期間が5年超 | 長期譲渡所得 | ||
株式等の場合 | ー | 上場株式等に係る譲渡所得 | |
一般株式等に係る譲渡所得 |
※ ゴルフ会員権、貴金属、事業用資産(土地・建物等を除く)など
譲渡所得の金額の計算
譲渡所得の金額=総収入金額ー(取得費+譲渡費用)
総収入金額
譲渡した価格をいう。
取得費
概算取得費
取得費がわからないときや実際の取得費が譲渡価額の5%より少ない場合には、譲渡価額の5%相当額を取得費とすることができる。
なお、概算取得費を選択した場合、登記費用等を別途取得費に加算することはできない。
相続税の取得費加算の特例
相続により取得した財産を相続開始の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年以内に譲渡したときは、支払った相続税のうち、以下の計算による金額を取得費に加算できる。
取得費に加算する相続税額=その者の納付相続税額$×\frac{その者が譲渡した土地・建物に係る相続税評価額}{その者の相続税の課税価格(債務控除前)}$
譲渡費用
譲渡の際の仲介手数料、土地の測量費用、借家を譲渡するときに借家人に払った立退料など。
特別控除
一定の居住用財産を譲渡した場合や土地・建物を収用事業のために譲渡した場合、特別控除として以下の金額が控除される。長期譲渡・短期譲渡にかかわらず対象となる。
譲渡の種類 | 控除額 |
---|---|
収用事業のための譲渡 | 5,000万円 |
居住用財産の譲渡 | 3,000万円 |
したがって、特別控除がある場合、以下の算式で算出する。
譲渡所得の金額=総収入金額ー(取得費+譲渡費用)ー 特別控除
土地・建物等の譲渡の税率
短期譲渡所得の税額=課税短期譲渡所得金額×39%(39.63%)
※所得税30%(30.63%)、住民税9%
長期譲渡所得の税額=課税長期譲渡所得金額×20%(20.315%)
※所得税15%(15.315%)、住民税5%
( )は復興特別所得税込みの税率
出題例
3級
(54) 相続により取得した土地について、「相続財産に係る譲渡所得の課税の特例」(相続税の取得費加算の特例)の適用を受けるためには、当該土地を、当該相続の開始があった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後( )を経過する日までの間に譲渡しなければならない。
1) 2年
2) 3年
3) 5年
3級 学科試験(2022年1月23日実施)
正解:2
相続により取得した財産を相続開始の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年以内に譲渡したときは、支払った相続税のうち、一定の金額を取得費に加算できる。
2級
問題 49
個人が土地を譲渡した場合の譲渡所得に関する次の記述のうち、最も不適切なものはどれか。
1.譲渡所得の金額の計算上、譲渡した土地の取得費が不明な場合には、譲渡収入金額の10%相当額を取得費とすることができる。
2.譲渡所得のうち、土地を譲渡した日の属する年の1月1日における所有期間が5年以下のものについては、短期譲渡所得に区分される。
3.土地売却時に生じた譲渡所得が長期譲渡所得に区分される場合、課税長期譲渡所得金額に対し、原則として、所得税(復興特別所得税を含む)15.315%、住民税5%の税率により課税される。
4.土地を譲渡する際に支出した仲介手数料は、譲渡所得の金額の計算上、譲渡費用に含まれる。
2級 学科試験(2022年度9月実施)
正解:1
1 誤り。
譲渡所得の金額を計算するとき、取得費が不明な場合や、実際の取得費が収入金額の5%より少ない場合には、譲渡収入金額の5%を取得費とすることができる。(概算取得費)
2 正しい。
譲渡所得のうち、土地を譲渡した日の属する年の1月1日における所有期間が5年以下のものについては、短期譲渡所得に区分される。
3 正しい。
土地売却時に生じた譲渡所得が長期譲渡所得に区分される場合、課税長期譲渡所得金額に対し、原則として、所得税(復興特別所得税を含む)15.315%、住民税5%の税率により課税される。
4 正しい。
主な譲渡費用
譲渡費用の主なものは次のとおりである。
- 土地や建物を売るために支払った仲介手数料
- 印紙税で売主が負担したもの
- 貸家を売るため、借家人に家屋を明け渡してもらうときに支払う立退料
- 土地などを売るためにその上の建物を取り壊したときの取壊し費用とその建物の損失額
- 既に売買契約を締結している資産をさらに有利な条件で売るために支払った違約金
これは、土地などを売る契約をした後、その土地などをより高い価額で他に売却するために既契約者との契約解除に伴い支出した違約金のこと。 - 借地権を売るときに地主の承諾をもらうために支払った名義書換料など
このように、譲渡費用とは売るために直接かかった費用をいう。
したがって、修繕費や固定資産税などその資産の維持や管理のためにかかった費用、売った代金の取立てのための費用などは譲渡費用にならない。
(参考)No.3255 譲渡費用となるもの(国税庁Webサイト)
1級
《問40》 居住者が土地・建物を譲渡した場合における譲渡所得の金額の計算上の取得費に関する次の記述のうち、最も不適切なものはどれか。
1) 土地とともに取得した当該土地上の建物の取壊し費用は、当初からその建物を取り壊して土地を利用することが目的であったと認められる場合、原則として、当該土地の譲渡所得の金額の計算上の取得費に算入する。
2) 一括して購入した一団の土地の一部を譲渡した場合、原則として、その一団の土地の取得価額に、譲渡した部分の面積がその一団の土地の面積のうちに占める割合を乗じて計算した金額を譲渡所得の金額の計算上の取得費とする。
3) 相続税を課された者が、当該相続により取得した土地を、相続開始のあった日の翌日から相続税の申告書の提出期限の翌日以後3年以内に譲渡した場合、相続税額のうち譲渡した土地に対応する分として計算した金額を譲渡所得の金額の計算上の取得費に加算することができる。
4) 自宅の建物(非事業用資産)を譲渡した場合、譲渡所得の金額の計算上、取得価額から控除する減価償却費相当額は、建物の耐用年数の旧定額法の償却率で求めた1年当たりの減価償却費相当額にその建物を取得してから譲渡するまでの経過年数を乗じて計算する。
1級 学科試験<基礎編>(2023年5月28日実施)
正解:4
1 正しい。
自己の有する土地の上に存する借地人の建物等を取得した場合又は建物等の存する土地(借地権を含む。以下この項において同じ。)をその建物等と共に取得した場合において、その取得後おおむね1年以内に当該建物等の取壊しに着手するなど、その取得が当初からその建物等を取壊して土地を利用する目的であることが明らかであると認められるときは、当該建物等の取得に要した金額及び取壊しに要した費用の額の合計額(発生資材がある場合には、その発生資材の価額を控除した残額)は、当該土地の取得費に算入する。(所得税基本通達38-1)
2 正しい。
一括して購入した一団の土地の一部を譲渡した場合における譲渡所得の金額の計算上控除すべき取得費の額は、原則として当該土地のうち譲渡した部分の面積が当該土地の面積のうちに占める割合を当該土地の取得価額に乗じて計算した金額によるものであるが、当該土地のうち譲渡した部分の譲渡時の価額が当該土地の譲渡時の価額のうちに占める割合を当該土地の取得価額に乗じて計算した金額によっても差し支えない。(所得税基本通達38-1の2)
3 正しい。
相続税を課された者が、当該相続により取得した土地を、相続開始のあった日の翌日から相続税の申告書の提出期限の翌日以後3年以内に譲渡した場合、相続税額のうち譲渡した土地に対応する分として計算した金額を譲渡所得の金額の計算上の取得費に加算することができる。(取得費加算の特例)
4 誤り。
譲渡所得の金額は、土地や建物を売った金額から取得費と譲渡費用を差し引いて計算する。取得費は、建物の場合には、その建物の建築代金や購入代金などの合計額がそのまま取得費になるわけではない。
建物は使用したり、期間が経過することによって価値が減少していく。
したがって、建物の取得費は建物の購入代金などの合計額から所有期間中の減価償却費相当額を差し引く必要がある。
事業に使われていなかった場合
建物の耐用年数の1.5倍の年数(1年未満の端数は切り捨てる。)に対応する旧定額法の償却率で求めた1年当たりの減価償却費相当額にその建物を取得してから売るまでの経過年数を乗じて計算する。
(参考)No.3261 建物の取得費の計算(国税庁Webサイト)
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