相隣関係(2)
袋地
A所有の甲土地がB所有の乙土地とC所有の丙土地に囲まれていて、乙か丙を通らないと、甲から公道に出られない。このとき、BCのいずれかがAの通行を認め、地役権などが成立すれば問題はない。しかし、BCの両者ともAの通行を拒絶していたとすると、Aは甲の使用をあきらめるしかないのか。

民法は、他の土地に囲まれていて公道に通じていない土地(袋地)の所有者は、公道に出るために、他の土地(囲繞地)を通行できるとする。また、川・池などを通らないと公道に出られないとき、崖などがあって公道との間に著しい高低差があるときも、同様である (210条)。土地の効率的利用を高めるため、袋地のための通行権が認められると考えられる。
(公道に至るための他の土地の通行権)
第210条 他の土地に囲まれて公道に通じない土地の所有者は、公道に至るため、その土地を囲んでいる他の土地を通行することができる。
2 池沼、河川、水路若しくは海を通らなければ公道に至ることができないとき、又は崖がけがあって土地と公道とに著しい高低差があるときも、前項と同様とする。
(民法・e-GOV法令検索)
これに対して、土地の利用ができなくなると、社会経済的な損失が生じるために認められる、との見方もある。
ある土地が袋地かどうかは相対的に判断される。 Aが所有する甲山林で採石事業を営んでおり、甲から公道に出る通路はあるものの、急斜面で石材を搬出できない。このとき、甲が袋地であるとして、Aの通行権が認められたことがある。また、徒歩で公道に出入りできる土地であっても袋地であるとして、自動車通行を内容とする隣地通行権が認められうる(最判平成18・3・16民集60巻3号735頁)。
通行権の内容
甲土地(A所有) が乙土地(B所有)と丙土地(C所有)に囲まれ、袋地と認められた場合、Aは乙と丙のどちらを通行できるのか。
民法は、通行の場所・方法は、通行権者Aのために必要であり、かつ、他の土地のために損害が最も少ないものを選ばなければならないとする(211条)。
第211条 前条の場合には、通行の場所及び方法は、同条の規定による通行権を有する者のために必要であり、かつ、他の土地のために損害が最も少ないものを選ばなければならない。
2 前条の規定による通行権を有する者は、必要があるときは、通路を開設することができる。
(民法・e-GOV法令検索)
したがって、Aが乙・丙のどちらの土地を通行できるかは、一概に決まらない。Aの通行の必要性と、BCの負担の程度のほか、付近の地理的状況その他の事情を考慮して決められる。
Aが、乙についての通行権を認められたとする。このとき、Aは利益を受けるが、Bは不利益を受ける。そこで、AはBの乙に対する損害について、償金を支払わなければならない (212条)。
第212条 第二百十条の規定による通行権を有する者は、その通行する他の土地の損害に対して償金を支払わなければならない。ただし、通路の開設のために生じた損害に対するものを除き、一年ごとにその償金を支払うことができる。
(民法・e-GOV法令検索)
残余地の例外
袋地の通行権に関しては、次のような例外がある。上記と同様に、甲(A所有)が、乙(B所有)と丙 (C所有)に囲まれており、乙か丙を通らないと公道に出られない。実は、甲がもともとBの所有地であり、Bが甲と乙の2つに分けた(分筆した)上で、甲をAに譲渡したという事情があった。 このように、土地の一部譲渡によって袋地ができてしまった場合、Aは乙 (残余地)についてのみ通行権を有する。かつ、AはBに償金を支払う必要はない (213条)。Aは乙のみを無償で通行でき、丙を通行できない。甲・乙がもともと1つの土地 (ABの共有地)で、共有物分割 (256条)によりAが袋地の甲を取得した場合も同様である。
第213条 分割によって公道に通じない土地が生じたときは、その土地の所有者は、公道に至るため、他の分割者の所有地のみを通行することができる。この場合においては、償金を支払うことを要しない。
2 前項の規定は、土地の所有者がその土地の一部を譲り渡した場合について準用する。
(民法・e-GOV法令検索)
一部譲渡・分割の場合、当事者は袋地が生じることを予測できる。通行権の負担を予想し、一部譲渡費用・共有物分割の内容などを考えることができる。 他方、第三者Cが不利益を受けるべき理由はない。そのため、残余地のみの通行権が成立する。
残余地の特定承継
それでは、次のような場合はどうか。上記の一部譲渡の事例で、Aは資金が集まってから建物を建築しようと考えており、 乙を通行していなかったところ、Bが乙をDに譲渡し、Dは乙全体を塀で囲んでしまった。このとき、AはDに対してこの通行権を主張できるか、それとも、Cに対して丙の通行権を主張できるか。
判例は、残余地である乙の特定承継人Dに対して、Aは通行権を主張できるとする(最判平成2・11・20民集44巻8号1037頁)。なぜなら、AB間の一部譲渡時に、乙についての物権的な通行権が成立しており、この負担をDが当然承継することになるからである。また、C所有の丙に通行権を認めると、Cが不測の損害を被るからである。
この場合、Dは無償でAの通行権を認めなければならないのか。原則は無償である。しかし、Dは自分の知らない事情によって無償の通行権を受け入れなければならないとすると、予測できない不利益を受ける。そこで、有力な見解は、AはDに対して通行権を主張できるが、無償ではなく有償になるとする。
(参考)物権法[第3版] NBS (日評ベーシック・シリーズ) 日本評論社


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