今回のテーマは、「不動産物権変動の公示」である。
物権変動の公示
土地及びその定着物である不動産(民法86条1項)の物権変動は、当事者の意思表示のみによって生ずる。(意思主義、176条)
(物権の設定及び移転)
第176条 物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる。
(民法・e-Gov法令検索)
ただし、物権は、直接支配性・排他性を有するので、その物権変動が対外的に認識できないと、取引の安全という観点から弊害が大きい。
そこで、民法は、物権変動の事実を対外的に示す方法(公示方法)を定め、その方法を通して第三者の保護と取引の安全を図っている。
原則として、物権の公示方法は、
①不動産については、登記(177条)
②動産については、引渡し(178条)
である。
(不動産に関する物権の変動の対抗要件)
第177条 不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。
(動産に関する物権の譲渡の対抗要件)
第178条 動産に関する物権の譲渡は、その動産の引渡しがなければ、第三者に対抗することができない。
(民法・e-Gov法令検索)
公示の原則
第三者は、公示方法を備えていない物権変動を存在しないものとして扱うことができるとする原則をいう。
公示方法を備えていないにもかかわらず物権変動の効果が認められるとすると、取引の安全が害されるおそれがあり、公示制度が無意味なものとなってしまう。
そこで、公示の原則は、不動産物権変動と動産物権譲渡に共通して認められる。(177条、178条)
公信の原則
公示がある場合、第三者はその公示に対応する物権(変動)が存在するものと扱うことができるとする原則をいう。
取引相手に権利が本当に帰属していることを確かめることは、困難であることが多いため、公信の原則を採用すると、取引の安全が保護される。
もっとも、公信の原則を認めると、権利者が権利を失うという不利益を受ける。したがって、公信の原則を採用するか否かは、取引において、静的安全と動的安全のどちらを優先するかにかかる。
不動産は、高額かつ貴重な財産であり、権利を喪失することによる不利益が大きい。
また、わが国では、登記官は形式的審査権しか有さない。
したがって、不動産取引については、公信の原則は採用されていない。これを「登記に公信力はない」という。
ただし、登記を善意無過失で信じて取引をしたものについては、94条2項類推適用による保護が図られている。
(虚偽表示)
第94条 相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。
2 前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。
(民法・e-Gov法令検索)
一方、動産は、不動産取引に比べて権利を喪失することによる不利益が小さい。
また、動産の取引は、日常的になされるため、取引の都度権利関係を調べることになれば、取引の著しい停滞を招く。
したがって、動産の取引は、公信の原則が採用されている。(即時取得、192条)
(即時取得)
第192条 取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。
(民法・e-Gov法令検索)
(参考文献)C-Book 民法II〈物権〉 改訂新版(東京リーガルマインド)
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