民法を学ぼう!「動産物権変動(3)動産物権譲渡の対抗要件(3)」

スポンサーリンク
司法・法務

(2)動産譲渡登記

法人が動産を譲渡したときは、「動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律(動産債権譲渡特例法という)」による動産譲渡登記をすることによって、その譲渡の対抗要件を備えることができる。

動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律(e-Gov法令検索)

(a) 動産譲渡登記の意義

A製本会社は、 B銀行に対し、 B銀行のA製本会社に対する貸金債権を担保する目的で、 自分が所有する製本機(甲) を譲渡した。 この場合には、B銀行 は、占有改定による引渡しによって譲渡担保権の設定の対抗要件を備えることとなる。
しかし、占有改定による引渡しの存否と時期は、 外形上明らかでない

後日、A製本会社から甲の譲渡を受けたとする者があらわれ、その者との間で争いになるかもしれない。これに対し、 B銀行が登記によって対抗要件を備え ることができるならば、 そのような争いは、 未然に防止される。 さらに、即時取得の成立を妨げる効果も認められることがある 。
そのため、B銀行は、甲を担保としたA製本会社に対する融資を実行しやすくなる。
このように、動産を活用した企業の資金調達を円滑にする目的で創設されたのが、動産譲渡登記制度である。

(b) 動産譲渡登記の編成

動産譲渡登記を備えることができるのは、 「法人」 が動産を譲渡した場合である(動産債権譲渡特例法3条1項)。これに対し、「動産」の種別は、一般に制限されていない。 しかし、動産は、 その数が膨大であるから、 不動産登記のように、一つひとつの物を単位として登記を編成する(物的編成主義)のは、難しい。 そこで、動産譲渡登記では、動産の譲渡ごとに独立の登記として 所定のファイルに譲渡にかかる事項を記録することとし、譲渡人を指定して検索をおこなえば、その譲渡人が備えたすべての動産譲渡登記を知ることができる仕組みがとられている(人的編成主義)。

(動産の譲渡の対抗要件の特例等)
第3条 法人が動産(略)を譲渡した場合において、当該動産の譲渡につき動産譲渡登記ファイルに譲渡の登記がされたときは、当該動産について、民法第178条の引渡しがあったものとみなす。
以下略
(動産債権譲渡特例法・e-Gov法令検索)

(c) 譲渡にかかる動産の特定

動産譲渡登記を備えるためには、譲渡にかかる動産を特定する必要がある。 その方法としては、 ①動産の特質によって特定する方法と、 ②動産の保管場所 の所在地によって特定する方法とがある(動産・債権譲渡登記規則8条1項)。
①の方法では、シリアルナンバー等が求められる。 これは、(a)に挙げた例の ように、個別の動産が譲渡に供されるときを念頭に置いたものである。
他方、倉庫に現に存在し、かつ将来搬入される商品のすべてを譲渡担保権の目的とするときは、(集合動産譲渡担保 ) は、 シリアルナンバー等を指示して動産を 特定することができない。
この場合に用いられるのが、②の方法である。

(動産を特定するために必要な事項等)
第8条 法第七条第二項第五号に規定する譲渡に係る動産を特定するために必要な事項は、次の各号に掲げる区分に従い、当該各号に定める事項とする。
一 動産の特質によって特定する方法
イ 動産の種類
ロ 動産の記号、番号その他の同種類の他の物と識別するために必要な特質
二 動産の所在によって特定する方法
イ 動産の種類
ロ 動産の保管場所の所在地
以下略
(動産・債権譲渡登記規則・e-Gov法令検索)

(d) 登記情報の公開の仕組み

動産を譲り受けようとする者 (A) が、 その動産 (甲) について 動産を譲渡しようとする者 (B) を譲渡人とする動産譲渡登記がされているかどうかを確認するためには、次の方法をとることが考えられる。

第一に、Aは、登記事項概要証明書または概要記録事項証明書の交付を請求し、Bを譲渡人とする動産譲渡登記がされているかどうかを調査する。
そして、そのような動産譲渡登記がされているときは、甲が先行する動産譲渡登記の目的とされているかどうかを調査する必要がある。

そこで、第二に、Aは、Bに対し、登記事項証明書の交付を受けて、同証明書を自分に提示するよう求めることとなる。 同証明書が提示されれば、それにより、甲について動産譲渡登記がされているかどうかを確認することができる。Bがどのような動産を譲渡しているかについての情報は、Bの営業秘密や事業戦略に関わる。
そこで、登記事項証明書の交付請求権者は、譲渡の当事者・利害関係人等に限定されている(動産債権譲渡特例法11条2項)。動産を譲り受けようとする者は、その交付請求権者に含まれない。
AがBに対し、登記事項証明書を提示するよう求めなければならないのは、そのためである。

2つのステップは、かならずこれを踏まなければならないものではない
金融機関が融資をするケースでは、AがBに対し、 登記事項証明書を提示するよう始めから求めるのが通常であると考えられる。

2 次に掲げる者は、指定法務局等の登記官に対し、動産の譲渡又は債権の譲渡について、動産譲渡登記ファイル又は債権譲渡登記ファイルに記録されている事項を証明した書面(第二十一条第一項において「登記事項証明書」という。)の交付を請求することができる。
一 譲渡に係る動産又は譲渡に係る債権の譲渡人又は譲受人
二 譲渡に係る動産を差し押さえた債権者その他の当該動産の譲渡につき利害関係を有する者として政令で定めるもの
三 譲渡に係る債権の債務者その他の当該債権の譲渡につき利害関係を有する者として政令で定めるもの
四 譲渡に係る動産又は譲渡に係る債権の譲渡人の使用人
(動産債権譲渡特例法11条2項・e-Gov法令検索)

(e) 動産譲渡登記の効果ーみなし引渡しー

動産譲渡登記がされたときは、「当該動産について、民法第178条の引渡しが あったものとみなす」(動産債権譲渡特例法特3条1項)。
これにより、動産物権譲渡の対抗要件が備えられる。

同一の動産について、 複数の譲渡が競合した場合には、その優劣は、次のようにして定まる。
複数の動産譲渡登記がされたときは、登記の先後に従う。 また、②占有改定による引渡しと動産譲渡登記とがされたときは、占有改定による引渡しと登記との先後に従う
すなわち、占有改定による引渡しを受けた先行の譲受人よりも、動産譲渡登記を備えた後行の譲受人を優先させるルール(これを、登記優先ルールという)は、とられていない。

参考)物権法[第3版] NBS (日評ベーシック・シリーズ) 日本評論社

コメント

タイトルとURLをコピーしました