今回のテーマは、「物権的請求権」である。
意義
物権の円満な支配状態が妨害され、または妨害のおそれがある場合において、その妨害の除去または予防を請求することができる権利をいう。
民法には、物権的請求権を直接認める条文はないが、当然に認められるものと解される。
物権的請求権の法的性質をどう捉えるかについては、若干の争いがある。
物権的効力説(判例・通説)
物権的請求権は、物権の作用若しくは効力にすぎないので、独立の権利ではないとする説。
物権的請求権の種類・内容
物権的返還請求権
物を占有する者に対して返還を求めるものである。→占有回収の訴え(200条)
物権的妨害排除請求権
占有以外の方法で妨害する者に妨害の除去を求めるものである。→占有保持の訴え(198条)
物権的妨害予防請求権
妨害を生じさせるおそれがある者に対して予防措置を求めるものである。→占有保全の訴え(199条)
物権的請求権の相手方
原則
物権的請求権を行使する場合の相手方は、現在妨害を行っている者またはそのおそれがある者である。
例えば、土地を不法占拠する建物が存在している場合においては、土地所有者が建物収去土地明渡請求訴訟を提起するには、建物の実質的所有者を相手方とするのが原則である。
物権的請求権は、物権の侵害等によって当然に発生し、不法行為に基づく損害賠償請求権と異なり、相手方の故意・過失や責任能力の有無を問わない。(大判昭12.11.19/民法判例百選Ⅰ総則・物権〔第9版〕)
他人の土地上の建物の所有権を取得した者が自らの意思に基づいて所有権取得の登記を経由した場合には、たとえ建物を他に譲渡したとしても、引き続き登記名義を保有する限り、土地所有者は、その者に対して、物権的返還請求権を行使できる。(最判平6.2.8 民集 第48巻2号373頁)
物権的請求権の内容(費用負担)
行為請求権説(判例・通説)
物権的請求権は、相手方に対して妨害を除去するための積極的行為を請求しうる権利であり、その費用も相手方負担となる。
物権的請求権と他の請求権との競合
不法行為責任との関係
不法行為責任は金銭賠償の原則が採用されており、(722条1項、417条)
損害賠償は、別段の意思表示がないときは、金銭をもってその額を定める。(417条)
原状回復請求は認められないので、物権的請求権とは請求の内容が異なる。
→物権的請求権と不法行為責任の競合は生ぜず、要件を満たす限り、いずれの請求も認められる。
契約責任との関係
請求権競合説(判例・通説)
契約に基づく請求と物権的請求権の双方の要件を満たす限り、権利者はいずれを行使してもよい。
(参考文献)物権法[第3版] NBS (日評ベーシック・シリーズ)(日本評論社)、C-Book 民法II〈物権〉 改訂新版(東京リーガルマインド)
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