公衆衛生用薬
衛生害虫を防除する殺虫剤・忌避剤
殺虫剤・忌避剤のうち、ハエ、ダニ、蚊等の衛生害虫の防除を目的とする殺虫剤・忌避剤は医薬品又は医薬部外品として、法による規制の対象とされている。
忌避剤は人体に直接使用されるが、蚊、ツツガムシ、トコジラミ(ナンキンムシ)、ノミ等が人体に取り付いて吸血したり、病原細菌等を媒介するのを防止する。
衛生害虫の種類と防除
ハエ
- 赤痢菌、チフス菌、コレラ菌、O-157大腸菌等の病原菌や皮膚疾患、赤痢アメーバ、寄生虫卵、ポリオウイルスの伝播など様々な病原体を媒介する。
- ハエの防除の基本は、ウジの防除であり、その防除法としては、通常、有機リン系殺虫成分が配合された殺虫剤が用いられる。
- 一般家庭においては、医薬部外品の殺虫剤(エアゾールなど)や、ハエ取り紙などの物理的な方法が用いられる。
蚊
- 吸血によって皮膚に発疹や痒みを引き起こすほか、日本脳炎、マラリア、黄熱、デング熱等の重篤な病気を媒介する。
- ボウフラが成虫にならなければ保健衛生上の有害性はないため、羽化するまでに防除を行えばよい。
- 一般家庭においては、医薬部外品の殺虫剤(蚊取り線香、エアゾール等)が用いられる。
- 野外など殺虫剤の効果が十分期待できない場所では、忌避剤を用いて蚊による吸血の防止を図る。
ゴキブリ
- 食品にサルモネラ菌、ブドウ球菌、腸炎ビブリオ菌、ボツリヌス菌、O-157大腸菌等を媒介する。
- 暗所、風のない場所、水分のある場所、暖かい場所を好むので、該当する場所を中心に防除を行う。
- 燻蒸処理を行う場合、ゴキブリの卵は医薬品の成分が浸透しない殻で覆われているため、殺虫効果を示さない。そのため3週間位後に、もう一度燻蒸処理を行い、孵化した幼虫を駆除する。
シラミ
- 吸血箇所の激しい痒みを起こす。
- 日本紅斑熱や発疹チフス等の病原細菌であるリケッチア(リケッチアは人獣共通して感染する)の媒介。
- 防除の物理的方法としては、散髪や洗髪、入浴による除去、衣服の熱湯処理などがある。
- 医薬品による方法では、殺虫成分としてフェノトリンが配合されたシャンプーやてんか粉が用いられる。
トコジラミ
- 刺されると激しい痒痛を生じ、アレルギー反応による全身の発熱、睡眠不足、神経性の消化不良を起こす。
- ペスト、再帰熱、発疹チフスを媒介することもある。
- 防除にはハエ、蚊、ゴキブリと同様な殺虫剤が使用されるが、体長が比較的大きい(成虫で約8mm)ので、電気掃除機で隅々まで丁寧に吸引することによる駆除も可能である。
ノミ
- 主に吸血されたときの痒み。
- ペスト等の病原細菌を媒介する。
- イヌやネコなどに寄生しているノミに対して、ノミ取りシャンプーや忌避剤などが用いられる。
- 電気掃除機による吸引や殺虫剤の散布などによる駆除を行う。
イエダニ
- 吸血による刺咬のため激しい痒みを生じる。
- 発疹熱などのリケッチア、ペストなどを媒介する。
- 宿主動物であるネズミを駆除する。
ツツガムシ
- ツツガムシ病リケッチアを媒介するダニの一種である。
- ツツガムシが生息する可能性がある場所に立ち入る際には、専ら忌避剤による対応が図られる。
- なるべく肌の露出を避け、野外活動後は入浴や衣服の洗濯を行う。
屋内塵性ダニ
ツメダニ類
- 刺されるとその部位が赤く腫れて痒みを生じる。
ヒョウヒダニ類、ケナガコナダニ
- ヒトを刺すことはないが、ダニの糞や死骸がアレルゲンとなって気管支喘息やアトピー性皮膚炎などを引き起こすことがある。
防除
- 完全に駆除することは困難である。
- 一定程度まで生息数を抑えれば保健衛生上の害は生じないので、増殖させないということを基本に防除が行われることが重要である。
- 殺虫剤の使用についてはダニが大量発生した場合のみとする。
- 畳、カーペット等を直射日光下に干すなど、生活環境の掃除を十分行う。
- 室内の換気を改善し湿度を下げることも、ダニの大量発生の防止につながる。
- 殺虫剤を散布する場合には、エアゾール、粉剤が用いられることが望ましい。
- 医薬品の散布が困難な場合には、燻蒸処理等が行われる。
代表的な配合成分・用法、誤用・事故等への対処
有機リン系殺虫成分
アセチルコリンを分解する酵素(アセチルコリンエステラーゼ)と不可逆的
に結合してその働きを阻害する。
成分
ジクロルボス、ダイアジノン、フェニトロチオン、フェンチオン、トリクロルホン、クロルピリホスメチル、プロペタンホス
- ほ乳類や鳥類では速やかに分解されて排泄されるため毒性は比較的低い。
- 高濃度又は多量に曝露した場合(特に、誤って飲み込んでしまった場合)には、神経の異常な興奮が起こり、縮瞳、呼吸困難、筋肉麻痺等の症状が見られたときは、直ちに医師の診断を受ける。
カーバメイト系殺虫成分、オキサジアゾール系殺虫成分
有機リン系殺虫成分と同様にアセチルコリンエステラーゼの阻害によって殺虫作用を示すが、有機リン系殺虫成分と異なり、アセチルコリンエステラーゼとの結合は可逆的である。
成分
プロポクスル(カーバメイト系殺虫成分)、メトキサジアゾン(オキサジアゾール系殺虫成分)
- ピレスロイド系殺虫成分に抵抗性を示す害虫の駆除に用いられる。
- 一般に有機リン系殺虫成分に比べて毒性は低い。
ピレスロイド系殺虫成分
神経細胞に直接作用して神経伝達を阻害する。
成分
ペルメトリン、フェノトリン、フタルスリン
- 除虫菊の成分から開発された成分で、比較的速やかに自然分解して残効性が低いため、家庭用殺虫剤に広く用いられている。
- フェノトリンは、殺虫成分で唯一人体に直接適用されるものである。
有機塩素系殺虫成分
神経細胞に直接作用して神経伝達を阻害する。
成分
オルトジクロロベンゼン
- 有機塩素系殺虫成分(DDT等)は、日本ではかつて広く使用され、感染症の撲滅に大きな効果を上げたが、残留性や体内蓄積性の問題から、現在ではオルトジクロロベンゼンがウジ、ボウフラの防除の目的で使用されているのみとなっている。
昆虫成長阻害成分
昆虫の脱皮や変態を阻害する。
成分
メトプレン、ピリプロキシフェン
- 幼虫が十分成長して 蛹になるのを抑えているホルモン(幼若ホルモン)に類似した作用を有し、幼虫が 蛹になるのを妨げる。
成分
ジフルベンズロン
- 脱皮時の新しい外殻の形成を阻害して、幼虫の正常な脱皮をできなくする。
- 有機リン系殺虫成分やピレスロイド系殺虫成分に対して抵抗性を示す場合にも効果がある。
殺虫補助成分
それ自体の殺虫作用は弱いか、又はほとんどないが、殺虫成分とともに配合されることにより殺虫効果を高める。
成分
ピペニルブトキシド(PBO)、チオシアノ酢酸イソボルニル(IBTA)
忌避成分
成分
ディート
- 最も効果的で、効果の持続性も高い。
- 6歳未満の乳児への使用を避ける。
成分
イカリジン
- 年齢による使用制限がない。
- 蚊やマダニなどに対して効果を発揮する。
- 忌避剤は漫然な使用を避け、蚊、ブユ(ブヨ)等が多い戸外での使用等、必要な場合にのみ使用する。
- 皮膚にひどい湿疹やただれを起こしている人では、使用を避ける。
- 顔面に使用する場合は、目や口の粘膜に触れることのないようにする。
主な剤形、用法
スプレー剤
- 医薬品を空間中に噴霧するもので、原液を水で希釈して噴霧に用いる製品もある。
燻蒸剤
- 空間噴射の殺虫剤のうち、容器中の医薬品を煙状又は霧状にして一度に全量放出させるものである。
- 霧状にして放出するものは、煙状にするものに比べて、噴射された粒子が微小であるため短時間で部屋の隅々まで行き渡るというメリットがある。
毒餌剤(誘因殺虫剤)
- 害虫が潜んでいる場所や通り道に置いて、害虫が摂食したときに殺虫効果を発揮するものである。
蒸散剤
- 殺虫成分を基剤に混ぜて整形し、加熱したとき又は常温で徐々に揮散するようにしたもの。
粉剤・粒剤
- 粉剤は、殺虫成分を粉体に吸着させたもので、主にダニやシラミ、ノミの防除において散布される。
- 粒剤は、殺虫成分を基剤に混ぜて粒状にしたもので、ボウフラの防除において、ボウフラが生息する水系に投入して使用される。
乳剤・水和剤
- 原液を水で希釈して使用するもの。
油剤
- 湿気を避ける必要がある場所でも使用できる。
- 噴射器具を必要とし、包装単位が大きい製品が多いため、一般の生活者が家庭において使用することはほとんどない。
(参考)改訂版 この1冊で合格! 石川達也の登録販売者 テキスト&問題集 (KADOKAWA)、
登録販売者試験問題作成に関する手引き(令和5年4月)(厚生労働省)
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