本稿は、「知的財産管理技能検定(知財検定という)」の3級の出題範囲の頻出論点をまとめたものである。
商標法
「商標」とは
「商標」とは、「人の知覚によつて認識することができるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音その他政令で定めるもの」であって、
・業として商品を生産し、証明し、又は譲渡する者がその商品について使用をするもの
・業として役務(サービス)を提供し、又は証明する者がその役務について使用をするもの
である。
商標登録の要件
- 自己の業務に係る商品等に使用すること
- 識別力を有すること
- 識別力を有しない商標(例)
- 普通名称
- 慣用商標
- 商品の品質などを記述的に表したにすぎない商標
- 識別力を有しない商標(例)
- 商標登録を受けることができない商標に該当しないこと
- 商標登録を受けるには不適切な商標
- 他人の周知な商標と同一または類似する商標
- 先願の他人の登録商標と同一または類似の商標
- 商品の品質等の誤認を生じるおそれのある商標
- 商標登録を受けるには不適切な商標
- 先願主義
同一又は類似の商品又は役務について使用をする同一又は類似の商標について同日に二以上の商標登録出願があつたときは、商標登録出願人の協議により定めた一の商標登録出願人のみがその商標について商標登録を受けることができる。
商標登録出願
自然人であっても法人であっても、所定の要件を満たせば商標登録出願できる。
商標登録出願は、商標の使用をする一又は二以上の商品又は役務を指定して、商標ごとにしなければならない。「一商標一出願の原則」
出願公開制度はある(出願すると自動的に出願公開がなされる)が、出願審査請求は不要。
補正にあたり要旨を変更できない制限
願書に記載した指定商品若しくは指定役務又は商標登録を受けようとする商標についてした補正がこれらの要旨を変更するものであるときは、審査官は、決定をもってその補正を却下しなければならない。
商標権の発生と存続期間
商標権は、設定の登録により発生する。ただし、商標登録出願について、登録査定を受けた後、謄本送達日から30日以内に10年分もしくは5年分の登録料を納付し、設定登録がされることが必要となる。
商標権の存続期間は、設定の登録の日から10年をもって終了する。
更新登録の申請は、商標権の存続期間の満了前6月から満了の日までの間にしなければならない。
商標権の活用
ライセンス方法には、専用使用権と通常使用権がある。専用使用権は特許庁に登録しなければ効力を生じない。なお、通常使用権は、当事者間の契約のみで発生し、登録は不要だが、登録しておくと、その後に商標権を譲り受けた者に対しても、その効力を主張できる。
商標権の管理
不使用取消審判
継続して3年以上日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが各指定商品又は指定役務についての登録商標の使用をしていないときは、何人も、その指定商品又は指定役務に係る商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる。
商標権の侵害と救済
商標権侵害を発見した場合(商標権者側)
- 確認
- 警告
- 侵害者に警告しても使用をやめない場合は、差止請求(商標法36条)、損害賠償請求(民法709条)、不当利得返還請求(民法703条、704条)、信用回復措置請求(商標法39条)が可能である。
商標権侵害であると警告された場合(実施者側)
- 警告した者が商標権者であるかを「商標原簿」で確認する。
- 無効理由の有無を調べる。
- 無効理由が存在するなら、商標登録無効審判(商標法46条)を請求する。(利害関係人に限る)
ただし、一定の理由については、商標権の設定登録日から5年を経過していると、無効審判が請求できなくなる。
商標掲載公報が発行された日から2か月以内であれば、登録異議の申し立てができる。(誰でも請求できる。)
著作権法
- 著作物とは、思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。
- 二次的著作物とは、著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案することにより創作した著作物をいう。
- 編集著作物とは、編集物(データベースに該当するものを除く。)でその素材の選択又は配列によつて創作性を有するものは、著作物として保護する。
- データベースの著作物とは、データベースでその情報の選択又は体系的な構成によつて創作性を有するものは、著作物として保護する。
保護対象とならない著作物
- 憲法その他の法令
- 国若しくは地方公共団体の機関、独立行政法人又は地方独立行政法人が発する告示、訓令、通達その他これらに類するもの
- 裁判所の判決、決定、命令及び審判並びに行政庁の裁決及び決定で裁判に準ずる手続により行われるもの
- 1~3に掲げるものの翻訳物及び編集物で、国若しくは地方公共団体の機関、独立行政法人又は地方独立行政法人が作成するもの
著作者
著作者とは、著作物を創作する者をいう。
単に資金提供しただけの人や作業を手伝っただけの人は、著作物を創作していないので著作者とはならない。
共同著作物
共同著作物とは、2人以上の者が共同して創作した著作物であって、その各人の寄与を分離して個別的に利用することができないものをいう。(著作権法2条1項12号)
各人が著作権を共有する。
なお、歌詞と楽曲からなる歌や文章と挿絵からなる小説は、別々に利用することが可能なので、共同著作物には該当しない。
職務著作(法人著作)が成立するための要件
- 法人等の発意に基づくこと
- その法人等の業務に従事する者が職務上作成すること
- その法人等が自己の著作の名義の下に公表すること(プログラムの著作物の場合は不要)
- その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがないこと
映画の著作物
映画プロデューサーや映画監督などが、著作者に該当する。(全体的形成に創作的に寄与した者)
また、映画の著作物の著作権は、その著作者が映画製作者に対し当該映画の著作物の製作に参加することを約束しているときは、当該映画製作者に帰属する。
映画製作者とは、映画の著作物の製作に発意と責任を有する者をいう。映画会社が該当する。
著作者人格権
著作者は、著作者人格権と著作(財産)権を有する。行政庁への出願、登録などの手続きを必要とせず、著作物を創作すると無方式でこれらの権利が発生する。
著作者人格権
公表権 | 自分の著作物で、まだ公表されていないものを公表するかしないか、公表する場合、時期や方法を決定できる権利(著作権法18条) いったん公表した著作物については、公表権を主張することはできない。 |
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氏名表示権 | 自分の著作物を公表するときに、著作者名を表示するかしないか、表示するとすれば、実名か変名のいずれを表示するかを決めることができる権利(著作権法19条) |
同一性保持権 | 自分の著作物および題号(タイトル)を著作者の意に反する切除や改変などを加えることを禁止できる権利(著作権法20条) 例外的に、明らかな誤字・脱字、その他やむを得ない改変は認められる。 |
著作(財産)権
複製権 | 著作者は、その著作物を複製する権利を専有する。(著作権法21条) |
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上演権・演奏権 | 著作者は、その著作物を、公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として上演し、又は演奏する権利を専有する。(著作権法22条) |
上映権 | 著作者は、その著作物を公に上映する権利を専有する。(著作権法22条の2) |
公衆送信権等 | 著作者は、その著作物について、公衆送信(自動公衆送信の場合にあっては、送信可能化を含む。)を行う権利を専有する。また、公衆送信されるその著作物を受信装置を用いて公に伝達する権利を専有する。(著作権法23条) |
口述権 | 著作者は、その言語の著作物を公に口述する権利を専有する。(著作権法24条) |
展示権 | 著作者は、その美術の著作物又はまだ発行されていない写真の著作物をこれらの原作品により公に展示する権利を専有する。(著作権法25条) |
頒布権 | 著作者は、その映画の著作物をその複製物により頒布する権利を専有する。また、著作者は、映画の著作物において複製されているその著作物を当該映画の著作物の複製物により頒布する権利を専有する。(著作権法26条) |
譲渡権 | 著作者は、その著作物(映画の著作物を除く。)をその原作品又は複製物(映画の著作物の複製物を除く。)の譲渡により公衆に提供する権利を専有する。 (ただし、いったん適法に譲渡された場合は、その後の譲渡には譲渡権は及ばない)(著作権法26条の2) |
貸与権 | 著作者は、その著作物(映画の著作物を除く。)をその複製物(映画の著作物の複製物を除く。)の貸与により公衆に提供する権利を専有する。(著作権法26条の3) |
翻訳権・翻案権等 | 著作者は、その著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利を専有する。(著作権法27条) |
二次的著作物の利用に関する原著作者の権利 | 自己の著作物を原作品とする二次的著作物を利用(上記の各権利に係る行為)することについて、二次的著作物の著作者が持つものと同じ権利を専有する。(著作権法28条) |
著作権の発生と存続期間
著作物を創作すると、著作者には著作人格権と著作(財産)権が自動的に発生する。
著作者人格権は、著作者の一身に専属し、譲渡することができない。
著作(財産)権は、その全部又は一部を譲渡することができる。
著作(財産)権の存続期間は、著作物の創作の時に始まる。
そして、著作(財産)権は、原則として、著作者の死後(共同著作物にあっては、最終に死亡した著作者の死後。)70年を経過するまでの間、存続する。
また、無名・変名の著作物や、法人名義の著作物については、著作物の公表後70年まで権利が存続する。
保護期間の計算方法は、著作者が死亡した日の属する年の翌年1月1日から起算する。
著作権の制限
- 私的使用のための複製(該当する行為、しない行為)
- 引用(公正な慣行に合致し、引用の目的上正当な範囲内で行われること)
- 学校その他の教育機関(営利を目的として設置されているものを除く。)において授業の過程における利用に供することを目的とする場合
などである。
著作隣接権
著作権法では、歌手や俳優などの実演家、レコード製作者、有線・無線の放送事業者が対象である。
実演家には、実演家人格権が与えられている。(氏名公表権と同一性保持権)※公表権はなし
著作隣接権の発生と消滅
著作隣接権 | 権利の発生 | 権利の消滅 |
---|---|---|
実演 | その実演を行ったとき | その実演が行われた日の属する年の翌年から起算して70年後 |
レコード | その音を最初に固定したとき | その発行が行われた日の属する年の翌年から起算して70年後 |
放送・有線放送 | その放送・有線放送を行ったとき | その放送・有線放送が行われた日の属する年の翌年から起算して50年後 |
著作権侵害と救済
著作権法では、著作者の権利を侵害する行為は、著作者人格権の侵害と著作(財産)権の侵害に大別できる。
他人の著作物に依拠して、実質的に同一・類似の範囲にある著作物を著作権として規定される態様(著作権法21条等)で無断使用すれば、著作権侵害となる。
登録制度
登録項目 | 登録内容 |
---|---|
実名の登録 | 無名または変名で公表した著作物について、実名の登録ができる |
第一発行年月日等の登録 | その日に最初の発行(公表)があったものとの推定を受けられる |
創作年月日の登録 | プログラムの著作物について、創作年月日の登録ができる |
著作(財産)権の登録 | 著作(財産)権の移転は、登録しておくと第三者に対抗できる |
不正競争防止法
不正競争行為の類型
- 周知表示混同惹起(じゃっき)行為
- 著名表示冒用行為
- 商品形態模倣行為
- 営業秘密不正取得等行為
- 限定提供データ不正取得等行為
- 原産地等誤認惹起行為
- 競争者営業誹謗行為
独占禁止法
禁止される行為
- 私的独占
事業者が、いかなる方法をもってするかを問わず、他の事業者の事業活動を排除し、または支配することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限する行為 - 不当な取引制限
カルテルや入札談合など - 不公正な取引方法
公正な競争を妨げるおそれがあるもののうち、公正取引委員会が指定する行為
独占禁止法の規定は、著作権法、特許法、実用新案法、意匠法又は商標法による権利の行使と認められる行為にはこれを適用しない。(独占禁止法21条)
ただし、特許権の行使と認められない行為は、独占禁止法により制限される。
ライセンスする側が、特許発明の実施により製造された製品の販売価格を制限することは、独占禁止法により禁止される可能性が高い。
他方、同様の契約において、ライセンスの期間や地域を限定することなどは、特許権の行使に当たり、独占禁止法による制限は受けない。
種苗法
品種登録要件
- 公知の品種から区別できること(区別性)
- 均一であること(均一性)
- 安定していること(安定性)
- 譲渡されていないこと(未譲渡性)
品種登録は、出願品種の種苗又は収穫物が、日本国内において品種登録出願の日から1年さかのぼった日前(外国においては出願日から4年)に、譲渡されていた場合には、受けることができない。 - 名称が適切であること(名称の適切性)
存続期間
育成者権は、品種登録により発生し、その存続期間は、品種登録の日から25年(永年性植物にあっては、30年)とする。
(参考)
23~’24年版 知的財産管理技能検定®3級 テキスト&過去問題集 宇田川貴央 (著) (秀和システム)
知的財産管理技能検定3級公式テキスト[改訂14版] 知的財産教育協会 (編集) (アップロード)
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