内縁解消後の法律関係
内縁が当事者の生存中に解消される場合(離別による解消)
婚姻であれば、離婚によらない限り、当事者の生存中における解消は認めら れないが、内縁についてはこのような制約は存在しない。
内縁が当事者の生存中に解消される場合には、財産分与の規定(768条)の類推適用が認められている。したがって、当事者間で財産分与の協議が調わない場合には、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。
また、内縁の夫が他の女性と同棲を始めた場合のように、 内縁を正当な理由によらずに解消させた者は、 相手方に生じた損害を賠償しなければならない。
内縁が当事者の一方の死亡により解消される場合(死別による解消)
内縁夫婦の一方が死亡した場合に、残された内縁配偶者に相続権が認められないことについては異論がない。
死亡した者に相続人がいなければ、特別縁故者として清算後の相続財産の全部または一部を受けることができるが(958条の2)、相続人がいる場合には、 相続法上の権利は認められない。
(特別縁故者に対する相続財産の分与)
第九百五十八条の二 前条の場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。
2 前項の請求は、第九百五十二条第二項の期間の満了後三箇月以内にしなければならない。
(民法・e-Gov法令検索)
すると、内縁の夫が自己の名で得た財産は、すべて内縁の夫の相続人に移転し、内縁の妻の協力や寄与が一切無視される結果となってしまいかねない。
では、768条の類推適用により、 内縁の夫の相続人に対して財産分与を請求することは認められるだろうか。
判例は、 「相続の開始した遺産につき財産分与の法理による遺産清算の道を開くことは、相続による財産承継の構造の中に異質の契機を持ち込むもので、 法の予定しないところである」として、類推適用を否定している。 (最決平成12・3・10民集54巻3号1040頁)
内縁の夫婦の一方の死亡により内縁関係が解消した場合に、民法七六八条の規定を類推適用することはできない。(最決平成12年3月10日民集 第54巻3号1040頁)
(財産分与)
第七百六十八条 協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。
2 前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、離婚の時から二年を経過したときは、この限りでない
3 前項の場合には、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。
(民法・e-Gov法令検索)
死別による解消の場合、 残された内縁の妻の居住利益をいかにして保護するかも重要な課題となる。
死亡した内縁の夫が所有する建物で共に暮らしていたとき、建物の所有権は相続人が承継する。
しかし、相続人に居住の差し迫った必要がないような場合には、相続人からの明渡請求は権利濫用に当たると判断されることがある。(最判昭和39・10・13民集18巻8号1578頁)
内縁の夫死亡後その所有家屋に居住する寡婦に対して亡夫の相続人が家屋明渡請求をした場合において、右相続人が亡夫の養子であり、家庭内の不和のため離縁することに決定していたが戸籍上の手続をしないうちに亡夫が死亡したものであり、また、右相続人が当該家屋を使用しなければならない差し迫つた必要が存しないのに、寡婦の側では、子女がまだ、独立して生計を営むにいたらず、右家屋を明け渡すときは家計上相当重大な打撃を受けるおそれがある等原判決認定の事情(原判決理由参照)があるときは、右請求は、権利の濫用にあたり許されないものと解すべきである。
(最判昭和39年10月13日民集 第18巻8号1578頁)
では、内縁の夫が賃借していた建物で共に暮らしていた場合にはどうなるだろうか。
借地借家法36条は、相続人がいない場合について、同居していた内縁配偶者等が居住用建物の賃借権を承継する旨を定めている。 しかし、ここでも、賃借人となっていた者に相続人がいる場合には、残された内縁配偶者の保一護を図ることができない。
判例は、賃貸人からの明渡請求について相続人が承継した賃借権を生存内縁配偶者が援用するという理論構成を示している。(最判昭和42.2.21民集21巻1号155頁)
家屋賃借人の内縁の妻は、賃借人が死亡した場合には、相続人の賃借権を援用して賃貸人に対し当該家屋に居住する権利を主張することができるが、相続人とともに共同賃借人となるものではない。
(最判昭和42年2月21日民集 第21巻1号155頁)
(居住用建物の賃貸借の承継)
第三十六条 居住の用に供する建物の賃借人が相続人なしに死亡した場合において、その当時婚姻又は縁組の届出をしていないが、建物の賃借人と事実上夫婦又は養親子と同様の関係にあった同居者があるときは、その同居者は、建物の賃借人の権利義務を承継する。ただし、相続人なしに死亡したことを知った後一月以内に建物の賃貸人に反対の意思を表示したときは、この限りでない。
2 前項本文の場合においては、建物の賃貸借関係に基づき生じた債権又は債務は、同項の規定により建物の賃借人の権利義務を承継した者に帰属する。
(借地借家法・e-Gov法令検索)
(参考)家族法[第4版]NBS (日評ベーシック・シリーズ)日本評論社
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