引渡しを要する動産物権変動の範囲
177条は、対抗要件としての登記を要する不動産物権変動を、 「物権の得喪及び変更」と定めている。 これに対し、 178条は、対抗要件としての引渡しを要する動産物権変動を、「物権の譲渡」と定めている。 そこで、両条の文言がなぜ異なるのかが問題となる。
(不動産に関する物権の変動の対抗要件)
第177条 不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。
(動産に関する物権の譲渡の対抗要件)
第178条 動産に関する物権の譲渡は、その動産の引渡しがなければ、第三者に対抗することができない。
(民法・・e-Gov法令検索)
まず、動産所有権の原始取得は、 占有を取得しなければ、 その効力が生じないか (時効取得 (162条)、 即時取得(192条)、 無主物先占(239条) 遺失物拾得(240条) 等)、 占有の取得を問題としないものである (埋蔵物発見 (241条) 付合 (243条) 等)。
(所有権の取得時効)
第162条 20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
2 10年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。
(即時取得)
第192条 取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。
(無主物の帰属)
第239条 所有者のない動産は、所有の意思をもって占有することによって、その所有権を取得する。
略
(遺失物の拾得)
第240条 遺失物は、遺失物法(平成十八年法律第七十三号)の定めるところに従い公告をした後三箇月以内にその所有者が判明しないときは、これを拾得した者がその所有権を取得する。
(埋蔵物の発見)
第241条 埋蔵物は、遺失物法の定めるところに従い公告をした後六箇月以内にその所有者が判明しないときは、これを発見した者がその所有権を取得する。ただし、他人の所有する物の中から発見された埋蔵物については、これを発見した者及びその他人が等しい割合でその所有権を取得する。
(動産の付合)
第243条 所有者を異にする数個の動産が、付合により、損傷しなければ分離することができなくなったときは、その合成物の所有権は、主たる動産の所有者に帰属する。分離するのに過分の費用を要するときも、同様とする。
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また、 法律によって成立する動産上の担保物権については、対抗要件としての引渡しが問題とならない。
すなわち、 留置権は、占有をその成立要件としている (295条)。
動産を目的とする先取特権は、その成立を第三者に対抗するために特別な要件を満たす必要がない (306条・ 311条)。
他方、合意によって成立する動産上の担保物権には、 質権がある。質権の設定は、占有改定以外の方法による引渡しをその成立要件としている (344条・345条)。
さらに、動産物権の承継取得のうち、 相続によるものについては、 対抗要件としての引渡しが必要となる場合について、 特別な規定が設けられている (899条の2)。
そこで、178条の規定は、 対抗要件としての引渡しを要する動産物権変動を、動産物権の承継取得のうち、人の意思に基づいて権利が移転すること、つまり 譲渡に限るとしているものと説明される。
(留置権の内容)
第295条 他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を有するときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる。ただし、その債権が弁済期にないときは、この限りでない。
略
(一般の先取特権)
第306条 次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は、債務者の総財産について先取特権を有する。
一 共益の費用
二 雇用関係
三 葬式の費用
四 日用品の供給
(動産の先取特権)
第311条 次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は、債務者の特定の動産について先取特権を有する。
一 不動産の賃貸借
二 旅館の宿泊
三 旅客又は荷物の運輸
四 動産の保存
五 動産の売買
六 種苗又は肥料(蚕種又は蚕の飼養に供した桑葉を含む。以下同じ。)の供給
七 農業の労務
八 工業の労務
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(質権の設定)
第344条 質権の設定は、債権者にその目的物を引き渡すことによって、その効力を生ずる。
(質権設定者による代理占有の禁止)
第345条 質権者は、質権設定者に、自己に代わって質物の占有をさせることができない。
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(共同相続における権利の承継の対抗要件)
第899条の2 相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。
略
(民法・e-Gov法令検索)
(参考)物権法[第3版] NBS (日評ベーシック・シリーズ) 日本評論社
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