要件
何年にもわたり、他人の物を自己の物であると思い、これを使用している状態が続いていた場合、そのような状態を根拠として権利の取得を認めるのが、「取得時効」である。
所有権の時効取得
民法では、以下の通り規定されている。
第162条 20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
2 10年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。
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「所有の意思をもって」占有したこと
「所有者として物を所持すること」を意味する。そして、「所有の意思」の有無は、占有を生じさせた事実の性質によって客観的に判断される。
例えば、売買契約(民法555条)で目的物を購入した買い主には所有の意思が認められる。自分の土地との境界線を越えて隣地を使用している者も所有の意思が認められる。所有の意思を持ってする占有を「自主占有」という。
これに対して、人の物を借りて使用している者(賃貸借契約の賃借人)などは、所有の意思は認められない。賃借人は物を借りて使って、物を支配はしているが、他人の物を「他人の物」として占有している。これを「他主占有」という。
「平穏に、かつ、公然と」占有したこと
「平穏」とは、暴力的でないことであり、「公然」とは、隠され、秘密にされたものではないこと。
「他人の物を占有した」こと
時効は、一定期間にわたり継続した事実状態に対応する法律関係を尊重し、権利の取得という法律効果を認めるものである。その要件である「他人の者」の占有において、時効の対象物が占有者以外の他人の所有に属することを証明する必要はない。
なお、自己の所有物を占有していても、所有権の取得を証明できない場合において、自己の物について取得時効の主張を認めることに実益がある。
占有開始時に善意かつ過失がなかった(無過失)であったこと
占有開始時に善意かつ過失がなかった(無過失)であったことが、要件として加わると、10年の経過で時効取得できる。
「善意」とは、占有が開始された物が他人の物であることを知らなかったことをいう。
また、「無過失」とは、善意であることについて過失がなかったことをいう。
20年の場合は、「善意かつ無過失」の要件が加えられていない。つまり、占有開始時に他人の物であると知っていてもよい。
(参考文献)民法総則「第2版」 原田 昌和 他著 (日本評論社)、C-Book 民法I〈総則〉 改訂新版(東京リーガルマインド)
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