先回まで見てきたように、制限行為能力者と取引をした相手方は、取引を確定的に有効なものとすることはできず、取り消しされるかもしれないという不安定な立場である。そこで、民法では相手方の利益のために制度を置いている。このうち、「相手方の催告権」と「詐術を用いた場合の取消権の排除」を取り上げる。
相手方の催告権
(制限行為能力者の相手方の催告権)
第二十条 制限行為能力者の相手方は、その制限行為能力者が行為能力者(行為能力の制限を受けない者をいう。以下同じ。)となった後、その者に対し、一箇月以上の期間を定めて、その期間内にその取り消すことができる行為を追認するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、その者がその期間内に確答を発しないときは、その行為を追認したものとみなす。
2 制限行為能力者の相手方が、制限行為能力者が行為能力者とならない間に、その法定代理人、保佐人又は補助人に対し、その権限内の行為について前項に規定する催告をした場合において、これらの者が同項の期間内に確答を発しないときも、同項後段と同様とする。
3 特別の方式を要する行為については、前二項の期間内にその方式を具備した旨の通知を発しないときは、その行為を取り消したものとみなす。
4 制限行為能力者の相手方は、被保佐人又は第十七条第一項の審判を受けた被補助人に対しては、第一項の期間内にその保佐人又は補助人の追認を得るべき旨の催告をすることができる。この場合において、その被保佐人又は被補助人がその期間内にその追認を得た旨の通知を発しないときは、その行為を取り消したものとみなす。
民法・e-Gov法令検索
行為制限能力者を「未成年者・成年被後見人」と「被保佐人・被補助人」のグループに分けてみていこう。というのは、「未成年者・成年被後見人」には、受領能力(意思を受ける高度な能力)がない。そこで、催告はすべて保護者に対してすることになる。
相手方は一定の期間(一箇月以上)を定めて、追認するのかどうかの確答を促す(催告する)
未成年者・成年被後見人
催告の相手方・・法定代理人(未成年者)、成年後見人(成年被後見人)
効力・・返事がなければ追認となる。(20条2項)、なお、「特別の方式を要する行為」(20条3項)について、返事がなければ、取り消しとなる。(後見人が後見監督人の同意を得て追認する場合(826条、864条))
なお、行為能力の制限が解除された本人(未成年者が成年に達した、成年被後見人の後見開始の審判の取り消しが行われた)に対しては、催告できる。返事がなければ追認となる。
被保佐人・被補助人
催告の相手方・・被保佐人・被補助人(保護者の追認を得る)または、保佐人・補助人
効力・・被保佐人・被補助人(補助人の同意を要する旨の審判がなされた場合(17条1項))に対して催告を行った場合、返事がなければ取り消しとなる(20条4項)
保佐人・補助人に対して催告を行った場合、返事がなければ追認となる。
詐術を用いた場合の取消権の排除
(制限行為能力者の詐術)
第二十一条 制限行為能力者が行為能力者であることを信じさせるため詐術を用いたときは、その行為を取り消すことができない。
民法・e-Gov法令検索
これまで見てきた通り「行為能力制度」は、制限行為能力者を不利益な取引から保護することを目的としている。しかし、その制限行為能力者が詐術を用いて取引が有効であるとの信頼を相手方に生じさせた場合にまで保護を与えるべきではない。
要件
- 制限行為能力者が、自分が行為能力者であると、相手方に信じさせるために詐術を用いて
- 相手方が信じること
ポイントは、詐術を「用いた」こと。つまり積極的に騙す行為をしないと当てはまらない。単に「制限行為能力者」であることを黙秘していた場合は詐術に当たらない。ただし、黙秘が他の言動などと相まって、相手方を誤信させ、又は誤信を強めた場合は詐術に当たる。(最判昭44.2.13)百選Ⅰ(第6版)
効果
詐術を用いた制限行為能力者は、行為能力の制限を理由とする取り消しができない。保護者の取消権も消滅する。
(参考文献)民法総則「第2版」 原田 昌和 他著 (日本評論社)、司法書士 合格ゾーンテキスト 1 民法I 「第3版」根本正次著 (東京リーガルマインド)、C-Book 民法I〈総則〉 改訂新版(東京リーガルマインド)
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