先回ご紹介した通り、未成年者については、行為能力を制限し、法定代理人を付すことによる保護の制度が定められている。しかし、成年者となっても同じように保護が必要な方がみえる。そこで、民法では、成年者についても、行為能力を制限し、保護者を付する制度を設けている。
成年後見制度の概要
成年後見制度では、未成年者に対する保護と異なり、保護を受ける方自身の事理弁識能力(=意思能力)の程度に応じて、3つの類型に分けたうえで、類型ごとに行為能力が制限される度合いを異なるものにしている。
3つの類型は、事理弁識能力の低下が大きい順に、「後見」、「保佐」、「補助」である。
今回は、このうち、「後見」を取り上げる。
成年被後見人とは
民法の条文で確認してみよう。
(後見開始の審判)
第七条 精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、後見開始の審判をすることができる。
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「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある」とは、行為の結果を弁識するに足るだけの精神能力(事理弁識能力=意思能力)を欠くのを普通の状態にしていること。例えば、重度の精神障害、認知症。
もっとも、後見開始の審判の対象は成年者に限られていない。後見の場合の行為能力の制限は未成年者の制限より大きいので、未成年者の後見開始の審判にも実益はある。しかし、この制度はもっぱら成年者のための制度といえるので、「成年後見制度」と呼ばれる。
成年後見制度は、未成年者と異なり、家庭裁判所が保護を開始する旨の審判を行うことによって開始される。(成年被後見人→後見開始の審判)
開始の申し立てができるのは、本人、配偶者、四親等内の親族、すでに本人に保護者が付されているときは、その保護者、または検察官である。
成年被後見人の能力の範囲
(成年被後見人の法律行為)
第九条 成年被後見人の法律行為は、取り消すことができる。ただし、日用品の購入その他日常生活に関する行為については、この限りでない。
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成年被後見人の行為は原則として取り消すことができる。例外的に「日用品の購入その他日常生活に関する行為」が除外される。
この日常生活に関する行為以外は、成年被後見人が成年後見人の同意を得て行った行為も、常に取り消すことができる。(成年後見人には同意権がない)
成年後見人とは
後見が開始されると、保護者として成年後見人が置かれる。
(成年被後見人及び成年後見人)
第八条 後見開始の審判を受けた者は、成年被後見人とし、これに成年後見人を付する。
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先に触れたように、成年後見人には同意権がない。成年被後見人は成年後見人の同意を得て行為をしたとしても、有効な行為をすることができないとされている。
これ以外の取消権(120条1項)、追認権(122条)、代理権(859条)については、権限をもつ。
(参考文献)民法総則「第2版」 原田 昌和 他著 (日本評論社)、司法書士 合格ゾーンテキスト 1 民法I 「第3版」根本正次著 (東京リーガルマインド)、C-Book 民法I〈総則〉 改訂新版(東京リーガルマインド)
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