民法を学ぼう!「 占有権(6)本権の訴えとの関係」

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司法・法務

占有の訴えと本権の訴え(物権的請求権の行使)はどのような関係にあるのか。
問題は大きく2つに分けられる。①両方の訴えが認められる場合、②占有の訴えと本権の訴えが衝突する場合である。
さらに、派生的な問題として、③双方が占有を侵奪した場合がある。

訴えの並立

まず、両方の訴えが認められる場合を考える。 Aが所有し占有していた絵画を、Bに盗まれた。
AはBに対して、所有権に基づく返還請求権を行使すること、または、占有回収の訴えを提起することが考えられる。Aはどちらかを選択しなければならないか、それとも両方可能か。

実体法上の考え方

民法という実体法上、所有権に基づく返還請求権と、占有権に基づく返還請求権は別個の権利である。占有の訴えは本権の訴えを妨げず、また、本権の訴えは占有の訴えを妨げないとされている (202条1項))。したがって、Aはどちらを行使してもよく、同時に行使しても構わない

(本権の訴えとの関係)
第202条 占有の訴えは本権の訴えを妨げず、また、本権の訴えは占有の訴えを妨げない。

訴訟法上の考え方

民事訴訟法における判例および伝統的な見解(旧訴訟物理論)も、2つの訴訟はまったく別のものであるとする。

しかし、これらの考え方に対しては、有力な見解 (新訴訟物理論)から批判がなされている。
すなわち、202条1項は、 実体法上、2つの請求権があることを認めているに過ぎず、訴訟において、両者の関係をどう扱うべきかは別問題である。そして、訴訟法上、どちらか一方を提起している間に、他方をすることはできない (民訴142条)。また、一方の請求を主張して敗訴した他方の請求権は訴訟上行使できない(同114条)。なぜなら、訴訟制度は法的安定性を確保するために利用されるべきであり、また、相手方が再度の応訴・防御を強いられるのを防ぐ必要があるからである。

(重複する訴えの提起の禁止)
第142条 裁判所に係属する事件については、当事者は、更に訴えを提起することができない
(民事訴訟法)
(既判力の範囲)
第114条 確定判決は、主文に包含するものに限り、既判力を有する。
2 相殺のために主張した請求の成立又は不成立の判断は、相殺をもって対抗した額について既判力を有する。
(民事訴訟法)

これに対して、裁判所による釈明権の行使(同149条)や、 訴訟法上の責務(同2条)によって、現実の問題を解決できるとする再反論もある。

(釈明権等)
第149条 裁判長は、口頭弁論の期日又は期日外において、訴訟関係を明瞭にするため、事実上及び法律上の事項に関し、当事者に対して問いを発し、又は立証を促すことができる。
2 陪席裁判官は、裁判長に告げて、前項に規定する処置をすることができる。
3 当事者は、口頭弁論の期日又は期日外において、裁判長に対して必要な発問を求めることができる。
4 裁判長又は陪席裁判官が、口頭弁論の期日外において、攻撃又は防御の方法に重要な変更を生じ得る事項について第一項又は第二項の規定による処置をしたときは、その内容を相手方に通知しなければならない。
(民事訴訟法)
(裁判所及び当事者の責務)
第2条 裁判所は、民事訴訟が公正かつ迅速に行われるように努め、当事者は、信義に従い誠実に民事訴訟を追行しなければならない。
(民事訴訟法)

訴えの衝突

次に、両方の訴えが衝突する場合を考える。 A所有の甲土地をBが資材置場として利用していたところ、 AB間に紛争が生じ、 Aが甲全体をフェンスで囲ってしまった。 BがAに対して占有回収の訴えを提起したとき、Aは甲土地の所有者であり、Bには利用権限がないなどと主張した。

このとき裁判所は、Aの権利に関する主張について、判断をしてはいない。 占有の訴えについては、本権に関する理由に基づいて裁判できない。(202条2項)。これにより、Aの自力救済を禁止している。
とはいえ、AはBに対して、新たに訴え(反訴)を提起して(民訴146条)、所有権に基づく返還請求ができる(最判昭和40・3・4民集19巻2号197頁)。 反訴は、本訴と同一の訴訟手続となる。BのAに対する占有回収の訴えと同一で、AはBに対して所有物の返還を求めることができる。
なぜ反訴は認めるのか。①占有の訴えと本権の訴えには関連性があり、反訴の要件を満たすこと (民訴146条1項)、②202条は、本権を防御方法(抗弁)とすることを禁じているが、独立の請求 (反訴) とすることは禁じていないことが理由として挙げている。

(反訴)
第146条 被告は、本訴の目的である請求又は防御の方法と関連する請求を目的とする場合に限り、口頭弁論の終結に至るまで、本訴の係属する裁判所に反訴を提起することができる。ただし、次に掲げる場合は、この限りでない。
一 反訴の目的である請求が他の裁判所の専属管轄(当事者が第十一条の規定により合意で定めたものを除く。)に属するとき。
二 反訴の提起により著しく訴訟手続を遅滞させることとなるとき。
2 本訴の係属する裁判所が第六条第一項各号に定める裁判所である場合において、反訴の目的である請求が同項の規定により他の裁判所の専属管轄に属するときは、前項第一号の規定は、適用しない。
3 日本の裁判所が反訴の目的である請求について管轄権を有しない場合には、被告は、本訴の目的である請求又は防御の方法と密接に関連する請求を目的とする場合に限り、第一項の規定による反訴を提起することができる。ただし、日本の裁判所が管轄権の専属に関する規定により反訴の目的である請求について管轄権を有しないときは、この限りでない。
4 反訴については、訴えに関する規定による。
(民事訴訟法)

交互侵奪

続いて、双方が占有を侵奪した場合を考える。 Aが所有する甲自転車をBが賃借していた。 Bが甲を駅前に駐輪していたところ、Cが甲を盗んだ。 その後、Bは偶然、近くのスーパーで甲を見つけたのでCに無断で取り返した。
Cは、Bに対して占有回収の訴えを提起できるか。

甲の使用収益権限は、Bにある。 Bが甲を窃盗者Cに返還し、Cが再びBに返還するというのは、明らかに非効率である。 そこで、Bの実力行使がCによる侵奪から1年以内であれば、Cの訴えは認められないとする見解がある。Bも占有回収の訴えを提起できる (203条ただし書) からである。しかし、Cの侵奪から1年以内であれば、Cの占有に対する保護はまったく与えられないことになってしまう。

(占有権の消滅事由)
第203条 占有権は、占有者が占有の意思を放棄し、又は占有物の所持を失うことによって消滅する。ただし、占有者が占有回収の訴えを提起したときは、この限りでない。

Bが甲を取り返す行為は、自力救済である。自力救済は、判例・学説上、禁止されており、自力救済の禁止が、占有の訴えを認めるべき理由の1つとされている。 したがって、原則として、Cの占有回収の訴えは認められる。ただ、①ただちに実力行使をしないと、後の訴訟での権利実現がきわめて困難となること、かつ、②その手段が権利確保に必要な限度を超えないこと、以上の2点を満たす場合には、例外的に自力救済が認められると考えられる。

参考)物権法[第3版] NBS (日評ベーシック・シリーズ) 日本評論社

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