今回から、「代理」についてみていこう。
これまでは、「法律行為」についてみてきた。そこでは、法律行為の効果が帰属する者と、その相手方となる者との二者の関係が問題となっていた。
しかし、実際には、意思表示を自ら行う場合だけでなく、自分に代わって他人に意思表示をさせる場合がある。そのための制度が代理である。
代理とは、ある人(本人)のために、他人である代理人が、法律行為の相手方に対して意思表示を行った(または、相手方から意思表示を受けた)ときに、その法律行為の効果を、本人に直接生じさせる制度である。ここでは、本人、代理人、相手方の三者の関係が問題となる。
例えば、AがCにパソコンを売却しようとする場合、通常は、A及びCが売買契約(555条)の当事者となり、売り主(A)はパソコンの引き渡し義務を負い、買い主(C)は代金支払い義務を負う。
ところが、BがAから代理権を授与されてAの代理人となると、売買契約が締結されるにはBとCの間であるにもかかわらず、契約の効果帰属主体はA及びCとなる。
その結果、本人が直接契約を締結したのと同様に、Aがパソコンの引き渡し義務を負い、Cに対して売買代金の支払いを請求できる。
代理が成立するためには、通常の法律行為とは異なる要件が定められており、その要件が整わなかった場合の当事者の保護についても規定されている。これからそれらの規定をみていくことになる。
代理制度は、「私的自治の補充」と「私的自治の拡張」という機能を有する。
私的自治の補充(法定代理制度に関して)
意思無能力者や制限行為能力者は、権利能力を有するものの、単独で、完全に有効な法律行為をすることができない。そこで、これらの者に代わって保護者が法律行為をすることで、その効果を有効に本人に帰属させる制度が必要となる。
そのための制度が、法定代理制度(成年被後見人の後見人、未成年者の親権者)であり、これは、私的自治の原則を補充している。
私的自治の拡張(任意代理制度に関して)
人が自己の法律関係を自ら形成しようとする際の制限は、法律上の制限だけでなく、知識や能力の不足、または時間の制約という事実上の制限も存在している。代理制度は、自己に代わり、代理人が法律行為を行うことによって、事実上の制限を克服し、自己の法律関係を形成する範囲を広げることができる。
この制度が、任意代理制度であり、これは、私的自治を拡張するための制度として機能している。
(参考文献)民法総則「第2版」 原田 昌和 他著 (日本評論社)、C-Book 民法I〈総則〉 改訂新版(東京リーガルマインド)
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